GOMIstation

2025-1

2017年11月

「王立宇宙軍」には、シロツグの同僚たちがロケットの打ち上げ失敗ビデオ見ているシーンがあります。このシーンの爆発はとても見事なんですが、ある疑問があったので考えてみる。全部で3カット。



■「王立宇宙軍(劇場/1987)」/劇中ビデオ3カット

打ち上げ失敗その1:庵野作画(※推測)
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モノクロなので少し見にくいですね。じんわりと横に広がる煙、カゲ2色。当時の庵野作画とフォルムもタイミングも似ているし、まあこれは庵野秀明によるもの(作監修正の可能性も含む)と考えてよい。これは別に問題ない。作監の庵野がやっただろう。


打ち上げ失敗その2:増尾作画?(※推測)
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さっきのヤツとは、タイミングも煙の形もカゲも違っている。手前に進んでくる煙がめっちゃ良いんですが、増尾作画のように思います。助監督の増尾なら、これも問題ない。問題は次のカット。



★打ち上げ失敗その3:?作画
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これめちゃ上手いっすよね。劇中ビデオに使われているのがもったいないくらいに、爆発のタイミングといい、カゲの付け方といいキレイ。んで、疑問に思ったことなんだけど、なんでこんなキレイな爆発をここにもってきたのか。そういった点が引っかかったんですよ。こんなに上手い爆発を書ける人なら、ラストの戦闘シーンでもたくさん書いてもらった方が良いに決まっている。

でも、このようなフォルム・タイミングの爆発はラストのシーンでは見られないんです。当時、若手スタッフ主導で進めていた王立なら尚更書いてもらった方が助かるはずなのに。とすると、それができなかった理由があるのではないか。

その一つとして、これを書いたのは、作画から見て本谷利明さんではないかと思うんですよ僕は。


コントラスト調整版:本谷利明作画(※推測)
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そう、あの本谷利明です。この時期の彼の参加作品は、「AKIRA(1988)」「ヘル・ターゲット(1987)」という感じ。当時の本谷作画が緻密で写実的だったのは、言うまでもなく。カゲ2色で、ゆっくりとしたタイミングでタコ足煙が伸びていく。上の爆発と比較してみましょう。


ヘル・ターゲット(OVA/1987):本谷作画
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なんとなくわかりますかね。爆発のフォルムが大小入り乱れており、メインは大きな楕円となっている。煙と煙の間の濃いカゲの入れ方や、タコ足煙や滞留の感じが似ている。

王立ビデオパート検証

水色の円はトゲトゲの炎のディテールで、赤色は濃いカゲの部分ですね。トゲトゲディテールは意外と見過ごしていました、もしかしたら、この時期の本谷爆発の特徴かもしれない。

それで、この爆発が本谷さんだと思ったのは、もう1点あって。成人漫画家の森野うさぎさんによる本谷利明インタビューのこの部分を読んでもらいたい。

★お手数ですがいままでやられた作品を教えて下さい。
(中略)
森「アニメのほうは?」
本「これは多いから、じゃ、映画だけね。
「オネアミスの翼」原画。ちょっとだけしかやってない。プロデューサーとけんかしてすぐに辞めた。
パイロットフィルムの時の方が、カット数が多いくらいだ。ガイナックスと相性が悪いな、俺。
Gが頭文字の会社とはけんかばっかりしてるな。ガイナックスとかゲームアーツとか。」
http://www4.plala.or.jp/croh/gvdb/morino99dec26.html から引用
こういうソースを信用しすぎるのもあれなんですが、「鋼の鬼」「AKIRA」であれだけクオリティの高い煙や爆発を書いている本谷さんを、当時のアニメ演出家が使おうとしないわけないんですよ。これは間違いない。例外なく、ガイナックスも参加を打診したけれど、まあ途中でトラブルった。

――ここからはかなりの推測になりますが、ガイナが本谷へ参加を打診した。んで、王立で原画を何カットか書いている途中で、プロデューサーと揉めて辞退。本当はもっとガッツリやってもらう予定だった。こういう流れだったと推測。だとすると、この本谷原画ってガイナックスにとっては、「扱いにくいモノ」ではないですかね。本人は辞めちゃった、けど、すげえ上手い爆発の原画が残っている。辞退したからといって、これを処分するのはあまりにもったいない。活かしたい。そういうわけで、あの劇中ビデオシーンに使われたのではないかと思うのです。


まあ、とにかもくにも、こういったわけで、その3については本谷作画だと思います。王立宇宙軍の本谷パートがずっと気になっていたので、今回少し記事にしました。

「進撃の巨人」は、2010年代どころか、21世紀を代表する漫画になるだろうなと半ば確信している。




同系統、未知なる力・強大な力へと挑む「亜人」「モンキーピーク」「自殺島」なども十分に面白い作品である。しかし、これらは、ある種、キャラクターの行動が完璧すぎる。きちんとキャラクターがそつなく動き、そつなく失敗する。別にこれらの作品を貶める意図はないが、どこかしら、完璧さが際立つ。そこが、進撃との最も大きな違いである。

進撃の巨人は、どこか不安定さを含んでいる。エレンを想いすぎ、間接的にリヴァイを傷つけてしまうミカサ。アルミンを助けたいがばかりに、上官に刃を向けるエレン。不完全で不安定な感情や雰囲気を背負った、この作品は、そのおかげで、リアルなものとなっている。

感情によって揺り動かされ、時には成功し時には痛手を得る。こういったものは説得力を増す。ついぞ、エルヴィンは、自分の仮説を検証したがっていた。地下室への渇望があった。一度こそ揺らいだものの、リヴァイの説得により、戦場で死ぬ。

このような葛藤こそが、リアリティあふれる描写であり胸踊る要因ではないか。また、これが正しいと思われる選択がないのがいい。寄生獣も、正しい選択などない中で、選択を迫られ決断をする。失敗したり、後悔したり、嬉々と喜んだり、成功したり、人生そのものの本質が選択であると突きつけられているようだ。

不安定さ、未熟さ、不完全さ、こういったものを含んだ等身大のキャラクターの動きは、身近なものだ。身近なものはリアルさを醸し出し、そのリアルさが説得力を生み、説得力が没入のきっかけとなる。ああ、よく考えてみれば、エヴァなんて、その典型ではないだろうか。1ページで心踊る作品など、今しばらく見ていなかった。

「ナディア」~「帝都物語」あたりの、1990年代前後は増尾作画の過渡期です。この時期は、過渡期ということもあり、さまざまな工夫が見て取れて面白いんですよ。パートは全て推測。



■帝都物語(OVA/1991)01.03.04話


01話:崩れ行く建物1
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01話:崩れ行く建物2★★
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この時期の代表作は、「ナディア」「クラッシャージョウ」など。で、この頃の増尾作画の特徴といえば、『デコボコ平面フォルム』と、『クワガタ・ムーンライン』の2つです。なに分からないと。21世紀の義務教育ですよ、ご説明しましょう。



★増尾作画フォルム・ディテール比較図
増尾1990前後比較

特徴を要素別に分けると、
・輪郭と煙内部の色は異なっている(※輪郭と内部で色分けされている)
・煙内部のディテールに「クワガタ」のような模様がある
・煙内部の中心にカゲは、ほとんど付かない

この3点が、この時期の増尾作画(増尾煙)の特徴です。


さて、これらを踏まえて以下のgifを見てもらいましょう。今までより、ずっと深く、増尾作画を理解できると思います。


03話:家ぐしゃあ
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輪郭と内部は線で分けられており、煙内部にはカゲが付いていない。これでは平面的になってしまうはずなのに、立体感がある。なぜか。それは、これら平面的な煙を何層にも重ねているからです。オーガス以降、増尾作画の根幹をなしている部分です。



もう一つの主な特徴として、「爆発を2段階に分ける」というのがあります。

03話:大仏ドカン
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最初は遠方で爆発させておきながら、あるていど時間が経つと急に目の前で爆発する。カットの終わりで、5枚ほどでドカドカと爆発するんですが、これも大きな特徴です。「ガンスミスキャッツ」「トップをねらえ!」などでも散見される。



03話:龍内部での爆発(※推測)
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ディテール少なく、丸いフォルムのハイライトが入っている部分が重要。ぶっちゃけこれは微妙ですが、急速に伸びていくタイミングが増尾作画っぽい。


03話:ドッカン半球ドーム爆発 ★
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増尾作画では、半球ドームがときどき(「彼氏彼女の事情」「旧劇」「RE:キューティーハニー」など)見られます。ディテールが少ない半球ドーム爆発は、タイミングが大きなポイントとなる。膨らんでから目の前に迫るまで、そのタイミングのセンスが光る。



04話:墓ビーム
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04話は本当にさっぱり分からんかった。まあ、可能性があるとしたら、この辺でしょう。ナディアで見せたビームの膨らみ方/しぼみ方と似ている。あとはスミアのような、増尾(中野)フラッシュも判断材料ですが。ここでなかったら、瓦が浮きあがっていくところかもな~


「帝都物語」は豪華原画による作品ですので、やはり見極めるのが難しかった。特に、庵野合田松尾増尾が参加している話数は嬉しい一方で、判定のときには困ってしまうような。まあ、パート判定なんて正解することが目的ではありません。パート判定を通じて、その人の作画のどこに一体魅力があるのか、それを知ることが目的です。パートの正否はあまり重要ではないのです、間違っていたら直せばよいだけですから。「帝都物語」で増尾作画の別側面を知ることができた、それが作画のもつ楽しさの一つであります。

「ドラパン」「学校七不思議」あたりについて、述べておきたいとおもう。子どもの頃は、ドラ映画ばっかり見てたんですよ。これまた作画が良いんですよ。




■ドラミ&ドラえもんズ ロボット学校七不思議!?(劇場/1996)


ドカンドカン ★★:佐々木政勝(※推測)
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反動を利用して脱出するドラ・ザ・キッド。空気砲の煙がいったん広がってから細く伸びることで、奥行を出す。ラストの方の煙のタイミングなんかと比較してもらえれば、いろいろ分かると思います。



自由の女神ドカン:佐々木政勝作画(※推測)★
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これなんかも面白い。急速に広がった煙なので、外側の煙が内部へと戻っている点に注目して見てもらいたい。あとは、まあ佐々木政勝作画に共通しているんですが、ワシ爪のようなカゲを多用します。これが彼の作画の最大の特徴。



手作りどら焼き ★★
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関係ないんですが、特に印象に残っていたので。膨らんだ後やや平べったくなり、その上に、あんこを注いで、上からもう一枚ぽんっと置く。湯気がいいんすよ、湯気が。






■ザ ドラえもんズ 怪盗ドラパン謎の挑戦状!(劇場/1997)



崩壊と中身の登場 ★★:佐々木政勝(※推測)
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上部で建物が破壊されて中身が剥き出しになる。良い煙ですね、カゲ2色で立体感マシマシ。瓦礫が落ちていくときの煙は、瓦礫に引きずられるように伸びていく。


ドラえもんズ復活:佐々木政勝(※推測)
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この辺もタイミングが気持ちいい。広がるときは瞬間で、それから少し時間をかけてドラえもんズが煙から現れる。


ようやっと、佐々木政勝も少し紹介できました。佐々木政勝といえば、「咲-Saki-」「らんま1/2」における美少女作画も有名ですが、エフェクトも素晴らしいものがあります。ほぼカゲは1色なんですが、面白いことに立体的でダイナミックな爆発を書く。

さて、今回は上妻晋作作画について(カミツマとは読みません、コウズマと読みます)。上妻作画、特にエフェクトは、ジャンル分けできないほど個性的である。とにかく、タイミングがとても独特である点が最大の魅力だ。その点に注目して読んでもらいたい。


★神撃のバハムート VIRGIN SOUL 01話(TV/2015)


辺りを伺う龍と煙
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ちょうど半分くらいの瞬間に注目。煙がいったん、その場で停滞している。ただ単純に、煙が一定の動きをするのではなく、空気を考慮した結果、こうなっていると思う。

煙/爆発のディテール
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煙のディテールは、たいていカゲ1色。煙表面において、大きくしたり小さくしたり、また煙本体と連動させながら動かすことで、煙の動きを表す。炎/爆発時は、カゲとハイライトをそれぞれ使うが、ハイライトに重きを置いている。



龍の立ち上がりと建物の崩壊 ★★
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上妻作画は、どうにも言葉にしにくいんですが、やはり時々「止まる/停滞する」。このカットにおいてもそれは顕著に現れていて、建物が崩れた瞬間、龍が口を開けた瞬間に少し止まって/滞留している。とにかく、タイミングがとても独特と思ってもらえれば良い。建物が崩れた後の微妙な間も、地に足が着かない感じの不安定さがある。これで、単純な絵にならないようにしている。




伸びる炎ブレス ★
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炎の発生と消滅のタイミングに注目。色は2色+透過光ですかね。上妻作画は、主に球形のフォルムを多用する傾向にある。球形フォルムによって、炎を形どった後、色を白→黄→赤へと変化させる。その変化もパターン化されておらず、「どの瞬間に最も高温であるか」を念頭に作画されている。



炎ブレス2
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こちらも同じく。球形を2層に分けて、エフェクトを展開している。前方に透過光で、オレンジの方が後方ですね。消滅するのは、透過光の方が速くて理に適っている。しかし、このタイミング、どう説明したものか…。これだけスッパリと消滅する炎って中々ないのだ、というのも、たいがいは違和感が生じたり、ぎこちなく見えてしまうため。それを違和感なく、やり遂げている。




空中炎ぶわあ ★★
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あとは、こういった風にロール状に色を変化させつつ、炎を表現する場合もある。それぞれ違う速度で落下していくのが分かると思う。やっぱり上手いなあ。



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スミアを映してから右PAN。これも同様に。右PANしてからの外炎のフォルムも柔らかい。上妻作画というのは、球形の持つ「柔らかさ」と「瞬間さ」を上手く利用しているのかも?



とにもかくにも、独特なタイミングが上妻作画の最大の魅力だ。これは誰にも、模倣することができないと言い切っていい。そういうレベルのタイミングのセンスが上妻作画にはある。

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