こんな長くするつもりはなかったんですが、まあしょうがない。

■増尾昭一 爆発作画集ver2.01


増尾の80~90年代のいいとこ取りをした動画を作りました。一部エンコ上手くいってないですが、まあ一度ご覧いただければ幸いです。動画タイトルは、とある先人のエフェクト動画が好きなので、そこから取らせて頂きました。爆発作画集とあるように、増尾メカに関しては殆ど入れていません。「タイラー」のそよかぜとか、「ヤマト2520」とかのメカ好きなんですが、今回は省いてます。爆発だらけですが、楽しめてもらえたらいいです。


増尾昭一という名前を初めて意識したのは、『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』でした。特技監督ですね。それからずっと、増尾という人物はメカとエフェクトを写実的に描く人だなあということと、デジタルに強いという認識ぐらいしか持っていませんでしたが、例の『うる星やつら 156話』でようやっと調べ始めて、まあ本当にここまですごい人だとは思ってもみなかったとなったのが最初の感想です。


早速、増尾エフェクトに入って行きましょう!


1、初期:80年代前半(81~85)
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80年代にはロボットアニメを中心に、『六神合体ゴッドマーズ』『超時空世紀オーガス』『戦え!!イクサー1』『さすがの猿飛』『幻夢戦記レダ』などの作画で活躍されました。特に『オーガス』においては、月に150カット以上という凄まじい仕事量を見せつけています。

この時代は、増尾さんのアニメーター初期時代でもあり、 エフェクトは意外にも山下系作画となっています。山下系というと、金田エフェクトを少し発展させた形で、80.90年代は人気を博しました。メカの方も当然と言わんばかりに、コテコテした山下調の描き方をしています。ただ、パースを誇張するようなメカ作画は殆ど見られません。ここは意外と、初期増尾の特徴かもしれません。

■『超時空世紀オーガス(1983~84)』 20話
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金田・山下系爆発。ショックと白コマはオーガスの時代から既に見られます。庵野秀明との破片比較というマニアックな話もあるらしいですが、僕自身理解してないので省略。

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■『超時空世紀オーガス』 34話
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また『オーガス』の後半では、このようにまん丸な球形の板野系爆発も確認できます。この時代は、『愛・おぼえていますか』で作監補としても活躍されました。板野一郎ないしはマクロスの影響があったのは確かだろうと思います。一説によると、「初代マクロス」に参加できなかったため、スタジオジャイアンツを飛び出したというのも逸話として存在していて、増尾昭一のマクロスへの情熱を感じます。というか全般的に、増尾昭一は濃いオタクであったろうと思います。


初期増尾まとめ
・山下系9割、板野系1割
・ショックと白コマを2kで使う
・刻み海苔みたいな破片
・テレコム系な色使い(特に煙)
・金田パース的な誇張は殆どない


2、中期:80年代後半(85~88)
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中期においては、初期後半(『オーガス(後期)』『幻夢戦記レダ』や『ダーティペア)で見られた板野系なエフェクトが、『戦え!!イクサー1シリーズ』や『プロジェクトA子』『くりいむれもんPART4 POPCHASER』などで、完成されます。具体的には、ムーンラインというディテールと、板野系のまん丸なフォルムの2つが特徴です。後は、ショックの表現がより多くなってきます。初期の時代に山下調であったエフェクトは、板野の系譜をなぞるように丸みを帯びて変化していきます。山下系フォルムはこの時期には、ほぼ消滅しています。

■『プロジェクトA子(1986)』
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左上がショックの一部分。左下の白コマと合わせて、ショックを形成しています。


■『幻夢戦記レダ(1985)』
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レダでは、こういった赤いBGのコマで作られるショックも見ることができる。また、「イクサー」や「POPCHASER」においては、6k以上の長いショックや、「ズコン!」という文字ショックコマも散見される。

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(※左が「POPCHASER」、右が「イクサー」)


中期増尾のまとめ
・山下系の消滅と共に板野系フォルムへの転換
・ムーンラインの本格的始まり
・ショック&白コマの長さ(時たま6k以上)
・シャー芯みたいな破片がたくさん
・爆発の色は、オレンジ、ピンクが多い(=庵野とそっくり)


3、庵野王立・AKIRA本谷以降:90年代(87,88~95)
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AKIRA本谷というのは、僕の造語です。『AKIRA』の中で本谷利明が描いた濃密・緻密なフルアニメーション煙のシーンのことを指しています。この煙に当時のエフェクトを描くアニメーターたちはとてつもない影響を受けて、何とかリミテッドに落とし込もうと努力を重ねます。また同時期に、『王立宇宙軍』で描いた庵野秀明の写実黄金期の爆発・煙もまた影響を与え、87,88年頃に立体的な煙を描こうとするムーブメントが起きたと推測しています。増尾も例外でなく、影響を多分に受けてエフェクトは変化していきます。また、『トップをねらえ!』では演出・原画、『王立宇宙軍』では助監督として、幅広い活躍も見られます。

フォルムが大きく変わります。それまでは、板野系を基調としたまん丸だったフォルムが、一転して全体にこだわるフォルムになります。特徴的なディテールであった、ムーンラインは少し鳴りを潜め、他のカゲと合体してクワガタのようになっているか、ハイライトや透過光が少し入る程度に落ち着きます。

■『クラッシャージョウ 氷結監獄の罠(1989)』 ムーンライン・透過光の例
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■『クラッシャージョウ 氷結監獄の罠』 ムーンライン・クワガタの例
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ライン同士が繋がって丸を形成せずに離れて、クワガタのようになっているのが分かるかなあ。多分、右上が一番分かりやすい。これは「ナディア」、「ジャイアントロボ」、「クラッシャージョウ」など多数の作品で確認できる増尾爆発の大きな特徴の一つでもあり、魅力の一つでもあります。


■『ふしぎの海のナディア(1990)』 白コマの例
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このカットでは、白コマの多用が顕著です。具体的に言うと、1Fごとに白コマがインサート(挿入)されているという感じです。上記のカットではその違いを分かりやすくするために、最初のカットでは白コマをそのままスクショしていますが、2つ目のカットでは白コマを意図的に外しています。


■『クラッシャージョウ 最終兵器アッシュ(1989)』 じわ煙の例
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これまでの増尾煙ではテレコム系や板野系の煙が見られていました。が、この『クラッシャージョウ』のように、じわっとした感じの煙がこの頃から顕著に描かれるようになります。これは先程の「87.88年写実ムーブメント」の影響によるものだと推測しています。また、この「じわ煙」が後年の写実的な煙へと繋がっていきます。


AKIRA本谷以降の増尾のまとめ
・写実的なフォルム特化へ
・ムーンラインの変化とカゲへの影響
・じわ煙(ゆっくりとした煙)
・細かくて小さい破片
・爆発の色は、ピンクとオレンジが殆ど
・白コマの多用


4、エヴァ以降:90年代末~2000年代(95~07)
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『エヴァ』以降は、爆発というか原画を描く機会が減ります。それは、『エヴァ』のような大きめのプロジェクトにメインスタッフとして関わったことと、ディレクション(監督・演出)の方面に行ったことが大きな要因だと思います。そして、爆発を自体を描くことも減り、煙やメカの作画が多くなってきます。


■『無敵王トライゼノン(2000)』
(※『機神咆吼デモンベイン』と誤表記していたので、訂正しました。)
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■『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序(2007)』 
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『クラッシャージョウ』の時代の増尾煙は、じわっとした動き、比較的枚数を多く使うことで、本谷煙を実現しようと試みていました。しかし、00年代以降になると橋本敬史的なフォルム、ボコボコとした不規則な写実フォルムへと転換していきます。またクルミのようなカゲのラインの付け方により、写実的なフォルムを型取り、立体的にしようとしています。


エヴァ以降の増尾のまとめ
・爆発を担当するのが減る
・煙の形は、写実的なフォルム特化
・カゲの付け方で立体感を出す(中心部を気球のように張る)
・デジタルで、破片・ガヤといった素材追加で情報量を増やす
・ドーム型爆発の増加


★:増尾昭一の魅力まとめ

ここからは、配信ではうまく伝えられなかった増尾エフェクトの魅力について紹介と説明を。それぞれ項目別にして、紹介していこうと思います。


■増尾サーカス(オーガス、A子)
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上はオーガスですので、83,84年あたり。(下のA子は1895年あたり)メカもそうですけど、業界に入って2、3年でこんなキレイなサーカスが描けるのは凄まじいものがありますね。元から、熱意の大きい方だったと思います。特に、この20話においてはサーカスやミサイル作画がたくさんあります。これ本当に1人で描いたのかよ、とんでもねえな化け物だよという感じです。


■ムーンラインによる爆発の温度差表現(ダーティペア、POP)
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これがすごい。ムーンラインの目的というのは、高温部・低音部に分かれる爆発表面の表現のためにあるようです。または、あまりに爆発の表面に何もないとタイミングで勝負するしかなくなり。それを避けるための単純なアクセント的な使用も考えられます。これが後年のカゲの基礎になっているかもしれません。


■フォルム特化の煙(ヤマト2199、エヴァ序)
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「宇宙戦艦ヤマト2199」方は、カゲの部分が分かりにくいと思うのですが、簡単に説明すると、中心部を張るように(浮き出るように)見せるので、その周りにカゲを付けています。というかエヴァもボヤかしてるので見にくいですね。参考資料として、序の原画を見てもらうと分かりやすいと思います。

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(エヴァンゲリヲン:序 全記録全集より)

10年代以降は、こういった煙が本当によく見られます。整ったフォルムをじわっと動かす。これによって、煙・爆発の写実性はますます高まり、いい意味で「地味な煙」となっています。これがすさまじい職人ワザだと僕は思うのです。目立ってナンボのエフェクト作画であえて「地味な煙」とみなされるモノを描く力量やその勇気!安易な流行に流されず、自分のスタイルを貫く意志を持つ人は、エフェクトでは庵野秀明・佐々木政勝・村木靖と増尾さんぐらいなもんでしょう。


■ドーム型の爆発(ジャイアントロボ、彼氏彼女の事情)
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半球ドーム型に広がる爆発。DAICON4の庵野とかそうですね。ビックバンのような急速的な爆発スピードで見るものを圧倒し、凌駕します。簡単なように思えますが、タイミングをきちっと分かってないとダサくなるんですよ。ドーム爆発はエフェクト的特徴として、ドーム爆発の煙が終わりに右方向に流れていきます。まあカッコイイの一言でいいですよね。



と、こういったところで増尾エフェクトの概要と魅力についての紹介はほぼ終わりです。目立ってナンボのエフェクトもいいですが、増尾系と言ってもいい、ナチュラルな煙や描き込みが少なくて、写実的に見える煙もたまには愛してやってください。煙が泣きます。 

また先日、金曜ロードショーでエヴァが三週連続、放映されることが決定しました。すしお、平松禎史、本田雄、松原秀典、橋本敬史といった人たちの濃い作画の中で、増尾昭一の作画もさんさんと輝いております。それが増尾作画と認知されていないだけで、記憶に残るような爆発も描いているのです。煙だけ描いてると思った?残念!そんなわけはない!僕はココらへんが、増尾作画だと思っています。


■『エヴァンゲリヲン新劇場版:破(2009)』
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増尾さん、まだ白コマとショック使ってるんです。すごいっすよね、より洗練して使ってるんですよ。本当、パねえわ。また物語においても、ちょうど転換となる「3号機の起動実験」というポイントで増尾昭一に爆発作画を託すのは、庵野秀明からのこの上ない信頼を感じます。


■『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q(2012)』
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ここで本当に紹介終わり。

増尾エフェクトの魅力とは、ショックや白コマといった比較的古めの表現と、デジタルやCGといった比較的新しい表現の混在にあります。昔の表現に固執するわけでもなく、また新しい表現に安易に乗り換えていくわけでもなく、どちらにもある良いところ・有用性の高い部分を自分の作画に変換する形で、再表現する巧さにあるのです。だから、他のアニメーターに比べると地味かもしれません。でもその慎ましさは、アニメーターの中では珍しいと思います。目立ってナンボと考える人が多い中で、増尾さんは自分の持つ絶大な実力をハッキリと認識しているので、目立つ必要もないのです。だからこそ、僕らは増尾昭一という人物の人柄にまで想像力を働かせることができるのだと思います。