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ヤマデロイド-日本アニメ(ーター)見本市 第10話

「ヤマデロイド」とは、「日本アニメ(ーター)見本市」における第10話の作品です。制作はグラフィニカ。堀内、江本さんの共同監督で制作されました。今はこの「ヤマデロイド」が大変に好きでして、多分一番繰り返し見ています。今回は、その「ヤマデロイド」のどこから魅力が発生しているのかについて推測を展開していきたいと思います。

おおよその魅力は、おそらくシーンの構成方法から発生していると思う。この作品では、仮想現実の世界、おそらくアーティストとしての”ヤマデロイド”が存在している世界と、人々が普通にアミューズメントとしてライブを楽しんでいる現実世界の2つの世界があります。


序盤は、ライブシーンから始まる。導入部分として、現実世界と仮想現実(劇中劇的な映像)を分けている。具体的には、画面のサイズで差異を出している。

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(現実世界におけるライブシーン)

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(仮想現実の世界の映像によるシーン)



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だんだんと黒帯がなくなっていくことで、ライブが始まったことを感じさせる。こういった2つの場面(現実と劇中劇)を往来する映像技法は、いわゆるクロスカッティング(並行モンタージュ)と言います。クロスカッティング自体は珍しくもなんともないですが、実に洗練されて使用されているのが分かる。僕が初見で今敏っぽく感じたのは、このクロスカッティングによる所もありますが(今敏作品では、この上マッチカットも多用するから、とんでもない)、やはりシーン繋がりのシームレスさ(滑らかさ)が一番でしょうか。


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序盤は、原曲を歌われてている坂本冬美さんの「アジアの海賊」PVのオマージュだと思う。堀内さんが同トレスで「『アジアの海賊』は印象的な曲だった」と語っていたように、曲もさることながら、映像もまた印象的です。


■「アジアの海賊」 坂本冬美

 
おそらく敬意を払ってのことだと思います。序盤はこの日本画以外にも、回転するシーンや桜吹雪など、色々なところでリスペクトが見られる。同トレスで氷川さんが触れていた、「GLITTER(グリッター)」もこの映像のイメージが強いと思う。




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そうして劇中劇は、各地を放浪する男と村娘の出会いへ。


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そうそう、この布のたわみ方が良かった。重力に従いながら、空気も含みつつ降りて行っていると分かるのがとてもグッジョブでした。上手いです、誰だろう。



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このシーンは、「ロボットの鉄の冷たさに、ヤマデロイドが自虐してる」とずっと思い込んでたんですけど、全然違いますね。機械であろうヤマデロイドが恋の感情を感じたということで、スターゲイトみたいなもん通って感情に到達してる。



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再びライブシーン(現実世界)へ。花びらが舞いながら、カメラは回転しヤマデロイドを映す。桜吹雪の加減とBGの引き方で回り込みを表現してます。後は手前のbookもですね。



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ここの桜吹雪が、パーティクルでは一番良かった。画面の情報量を上手くコントロールしていたと思う。多分、人間が「気持ちいい」と処理できる桜の分量な気がします。



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そんで劇中劇へ。村人が2人のデートを垣間見たり、動物が喜んだりと楽しいシーンです。こういった少しオカシナシーンがあるのは、徹底的にアミューズメントを貫く劇中劇を描写するためだと思います。


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そら仕事にも熱が入る。ちなみにここの作画の箕輪さんから、クワ振るのは体正面の方がいいですか、どうですか」と言われて、江本さんが「どっちでもいいから早くしてくれ」と言ったと、同トレスでもお話に上がっていましたね。


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再びライブシーン。日本画を基調とした、和風っぽい感じを存分に出している。どうでもいいですが、桜吹雪を静止画で見ると、タタキっぽく見えますね。



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このシーンは漫画っぽくて良かった。まず敵の描写(1枚目)。そして、ポン引きした画面(2枚目)では、刀に透過光入れてるのがいいですよね。これだけで、画面に緊張感が走る。そして、武器の描写(3枚目)とそれに怯える村娘(4枚目)と。全体的に、漫画のコマ割りっぽいんですよね。江本さんは、劇画が好きということで意識的にやったのかも。いやあ村娘のカットは画像下部の撮影も含めて、いいですね。上手い。


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ここ上手かったんだよなあ。泣きじゃくる子どもと、じっと見つめるヤマデロイド。子どものカットでは下部にパラフィンで黒く影を落として、地面への高低差による暗さの違いを表現してる。よく見ないと分からんですが、こんな細部まで、こだわっているのが映像への没入を誘います。



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ここの煙良かったです。確かSeo Kyung Rockさんが描かれたと、同トレスで言ってたような。上手い。煙の発生もいいんですが、その後に留まる煙のじんわり感がいいです。ちょっとした後ヅメが効果的なんでしょうかね、すごく目に残る。


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このシーンは音楽との同調がとても良く、同時に悲劇としてのカタルシスを上手く描写している。音楽は一旦終わりかけるわけですが、そこへの持って行き方が上手い。


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村娘はすでに死んでしまっているので、明かりに顔の色が変化するのはヤマデロイドのみ。こういう地味なトコも漏れずにやってる、良いですね。



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徹底的なアミューズメント化というのは、老若男女どんな人でも楽しめないと多分ダメなんですよ。茶の間が楽しめないとダメな劇中劇を、真摯に描こうとしてる。だから、決して血は出さないし、敵がやられる描写すら殆どない。1枚目の黒ひげは踏んづけて終わりだし、2枚目の女はホワイトアウト、3枚目の男は刀が突き刺さったような感じで倒れて終わり(ここは少し不明瞭にしてる)、4枚目の絶妙な刀の刺し方!初見でも勘の良い人は分かりますよね、「あっこれ芝居なんだ」と。しかも、それが明確に分かるようにやってる。



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変身シーン。ここは凄まじかった。劇画調からCGへの転換なんですが、激情の感じが上手く描写されていたと思う。キャラの顔はもう作画大変だったろうと思います。こんなに一杯線があると。


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はいはいグラフィニカグラフィニカ。と冗談は置いといて、板野サーカス・アクション&タメてCG爆発。良かった。望遠でビームがガチャガチャやりあってるのもいいんですけど、2枚目みたいに接近すると臨場感が増すんですよね。この接近描写がちゃんと描けると、グッとサーカスって良くなるんですよね。


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ここが最高でした。劇中劇であった仮想世界での映像とライブシーンがここで初めてリンクするわけなんですよ。しかもほぼ完璧に。ここに対して違和感なんて全くないんですよ、だからシームレス(滑らかさ)が光ってるんだと感じた。左右のPANもいい味出してるんですよね、「これからリンクするぞ」っていうふうに、現象の予兆になってる。


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後は、この手ワイプが良かった。憶測ですけど、これって場面はライブステージなわけじゃないですか。だから現実にいる俳優さんが、ヤマデロイドという仮想映像をテクスチャみたく貼り付けて、それから元の姿に戻っているシーンだと思うんですよ。後述しますが、この近未来的にありえそうと思わせるのが上手かったです。


まあとにもかくにも、「ヤマデロイド」が大好きです。(アニメ、漫画)オタクくさくないのがとても良い。現実世界でも、初音ミク(ボーカロイドの代表例)のライブにおいても往々にして、こういう(映像をホログラムとかで立体的に映し出す)のは存在しているんですが、そういった形態のライブの未来といいますか、「ああ5年後にはありえるのかもなあ」といった要素を感じられるのがとても良かったです。

[図版はhttp://animatorexpo.com/yamadeloid/ から引用]