さて、今回は漫画の構図について少し。
(※作品のネタバレ含みますので、注意)

四コマ漫画の構図について少し書いておきたいと思いまして。
四コマ漫画は、基本的にフレーム(枠)が不変で構図を上手く利用しなければ面白味が出てきません。そういう点では、映画やアニメーションにも通ずる部分があると考えています。何かと見下されがちなジャンルですけど。

そんで、『未確認で進行形』という漫画が自分はもう胸がキュンキュンするくらい好きでして、その面白さを発現させているのが主に構図だと思うんですね。それを中心に見て行きたい。

<1、ダッチアングルの表現>

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(画像:1-1)
まずは、水平の構図の例。
これは、小紅(画像右)が真白(画像左)の年齢を疑っているシーン。小紅や真白といったキャラに対してフレームは垂直になっているので、水平の構図で描かれていることが分かる。


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(画像:1-2)
そんで次のコマ。フレームが左方向に傾いていますよね。
これは真白の心情を表現している。小紅から年齢を聞かれて、次に高校に入ったのは何故かと聞かれて、しどろもどろになってるのを誤魔化そうとしているために、ここでは真白の心情は不安定。だからこそ、こういう水平でないフレームでそれを表現している。


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(画像:1-3)

もう1つ傾いている構図の例を。
これはさっきの後のシーン。小紅は、真白が飛び級で高校に通っていると勘違いをしていて、それに真白が合わせてるシーン。だから真白的には見栄を張っている状況。その「見栄を張っている」という不安定さを出すために、真白自体を少し左方向に傾けている。

これらの「傾いた構図」は、ダッチアングルという技法が用いられている。ダッチアングルとは、あえて水平にしないで、斜めに傾けることによって不安感を演出するという映像技法。だから、これはとても理屈で技術的なシーンです。




<2、構図を占める割合による、力関係の表現> 

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 (画像:2-1)
白夜(許嫁)の親族が来ることに気を遣っている、小紅の生真面目さが面白いシーン。この前に、友達が「お嫁さんだもんねー」と冷やかされ、このコマにつながるわけなので、きちんとオチになっている。あ、そっちなんだみたいな。

生真面目さ、というものを表現するためには、表情だけでは足りない。特に四角や直線といったものは、規則・几帳面さ・厳格さといったものを受け手側に感じさせる。そのためフォントはゴシック体になり、四角形の吹き出しが全体の3分の1を占めている。後ろの背景が直線的な碁盤の目になっているのも、そういう意図がある。

さらに小紅が(吹き出しも含めて)全体の3分の2ほど占めることで、このシーンでは小紅の方に力(※そのシーンでの主導権)があることを表現している。


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(画像:2-2)
紅緒から「ケモノ耳フラグ!?」と冷やかされた真白が毅然と対応しているシーン。
中央に真白を配置し、コマから飛び出させることによって、真白の強さを表現している。キャラのデフォルメもしておらず、この四コマにおいての主導権は真白にある。

ただ中央に大きく配置しても、いつも主導権を握れるとは限らない。同じ配置、同じ大きさでも、力関係は変わってくる。それが次のコマ。


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(画像:2-3)
宇宙人(UMA)の存在を知って、怖がっている真白。
ここでは上記の画像:2-2と同じような配置と大きさであるが、主導権は真白に全くない。キャラはデフォルメされており、傍観者の小紅の方がフレームにおいて上部にくることで、小紅の方に頼もしさを感じるようになる。その結果、相対的に真白は弱々しく映り、庇護的な感情が読み手側に発生する。

コマにおいて、複数のキャラクターの水平的な位置関係もまた構図において重要なのだ。これは画像:1-1でも示されており、小紅は真白よりもコマの上部に位置している。そのため、小紅の強さはもっと増す。

水平的な位置関係について、もう少し見ていこう。

新規ドキュメント 11_4
(画像:2-4)
人ではない真白たちの元の姿が見たいとお願いする小紅と、それを拒む真白。
1コマ目では、両者の水平的な位置関係はそれほど変わらず、身長の差しか存在していない。しかし、2コマ目になるとアングルは横からになり、コマの上部に小紅の方がはっきりと位置していることが分かる。1コマ目では、ほぼ対等であった関係性が、2コマ目では紅緒の執着さを伝えられることで真白が怖がった結果、相対的に小紅の方に主導権が少し流れているのだ。

 
次は四コマ全体の流れから、力関係を少し見てみる。

新規ドキュメント 12_2
(画像:2-5)
新規ドキュメント 12_1
(画像:2-6)

新規ドキュメント 12_3
(画像:2-7)
これは2本の四コマを抜き出したもの。
四コマの後半3つ(画像:2-5)と、次の4コマの頭(画像:2-6)と終わり(画像:2-7)。
この眼鏡っこ(まゆら)は真白たちが人外であるのを知らないけど、「何か普通とは違うな」と洞察によって感じ取り、その洞察の鋭さに小紅が驚いているシーン。

画像2-5の1コマ目と画像2-6のまゆらの大きさに注目。前者では、まゆらがコマ自体を占める面積はそこまで大きくないが、後者では半分近く占めている。これは洞察の鋭さに驚いている小紅の主観からの画面であり、力関係はまゆらの方に傾いていることが分かる。

力関係(主導権)の流れとしては、均衡→ややまゆら→まゆらといった感じで移動していく。最後の画像2-7では、わずかにまゆらの方が上部に位置している。が、ここではそれよりも文脈の方が強く働き、主導権はまゆらに存在しています。



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(画像:2-8)

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(画像:2-9)
紅緒ファンの末続(長髪リボン)と真白のケンカのシーン。
画像2-8では、真白は紅緒からの被害を訴えている。が、それは末続にとってはむしろ羨ましいこと(一緒にお風呂、パジャマ買ってくれる)であり、両者の力関係は拮抗している。 そのため2人には身長差があるにも関わらず、あまり差がないように見せている。

 一方、画像2-9においては、末続は中央に大きく配置されている。これは、紅緒からのお節介を羨ましがる末続に真白が驚きを隠せず、とても困惑している状態だから。画像2-4と似たケース。このコマでは、一時的に末続の方に主導権が渡っている。

このケンカの顛末は、末続が逃げて終わるが、どちらかが圧倒したわけでもないので、力関係は拮抗したまま。この後再びケンカしますが、それでも決着は付きません。もうどっちもカワイイで終わりでいいんじゃない(違う


力関係、主導権については以上。
主導権については、『羊たちの沈黙』における、ハンニバル・レクターと訓練生クラリスの初めての会話シーンに対する考察動画があるので興味がある人は是非。



これは海外の方の動画なんですが、とても分析的で面白いです。

なんで構図やシーン全体のカメラを重要視しているのかというと、アニメの最たる理屈はここに存在している、と感じるからです。やっぱ人間脳みそあって進化してきたわけですから、魂に響く技法というのは理屈で構築されるべきと思うわけです。そこらへんも追々記事にするかもしれない。