・NHKアニメワールド 龍の歯医者  http://www.nhk.or.jp/anime/ryu/

さて、「龍の歯医者」です。元々アニメ(ーター)見本市で発表された鶴巻和哉作品でしたが、長編化が決まり、NHKで前後編に分かれて放映されました。尺は前後編合わせて、だいたい90分。


「龍」という、科学を超えた力がある。龍には弱点があり、それが虫歯菌である。虫歯菌が増え続けると、龍の力は弱まる。そこで、龍の力を保つべく、「龍の歯医者」という組織が日夜龍の歯の手入れを行っている。龍の歯医者の一員である、『ノノコ』はある日、龍の歯から人が出てくるところに出くわす。歯から出てきた少年は、『ベル』という軍人だった。彼らは、数奇な「運命」に巻き込まれつつも、生きようと奮闘していく。

あらすじはこんな感じ。以下ネタバレ注意

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まず、この作品でもっとも良くなかった点は、ブランコです。
これには大体の人が文句を言いたいところだと思う。

09]
ブランコは恐れもなく銃撃戦の最前線へと躍り出ますが、まったく被弾しない。「死なずのブランコ」と劇中で呼ばれるように、かすりすらしない。無謀な行動には、何か理由がないと、キャラの行動原理に説明がつきません。だから、ブランコは「ここでは死なないこと」を把握している可能性が高い。

すなわち、「キタルキワ」を知っている可能性が高い。そうでなければ、銃弾が飛び交う戦場で冷静にいられる彼の行動原理は理解できないし、黒縁メガネ軍人も叫んでいたように、「ブランコには弾が当たらない、そして戦火の渦中において彼は冷静である」という描写を執拗にする意味もない。

そこまで描写したならば、これはもう後編で回収する宿題です。元・龍の歯医者でなくてもよくて、「銃弾が飛び交う中、冷静でいられる理由」が示されたらよし。ブランコの背景には、何かがあった。それが後編のラストで、明かされるものだと思っていましたが、


30]
けっきょくは何もなし。ブランコの行動原理は謎のままで終わりました。彼には、どのような背景があったのか、思考があったのか、まったく分からないままに彼は死んでいった。あー、こりゃ浦沢直樹みたいなハッタリかまされたなあと思ったわけです。風呂敷は広げたけど畳まない。いや、浦沢直樹でも少しは畳むのに、これは本当に何も畳んでません。


こうなると、ブランコというキャラクターに魅力ってないんですよ。単純に「引っ掻き回し役」として、彼は存在しただけなんで。彼の生まれや背景は、物語にまったく関係がないんです、引っ掻き回すためだけならば、それがブランコである必要性がないんです。他の誰でもいい。

ブランコというキャラクターを作った。姿見をこだわった。ならば、彼の存在意義や背景、思考回路は必要です。少なくとも僕はそう思う。何のために龍へと潜り込んだのか、そして何故、銃弾に当たらない自信があったのか。もったいない。意味ありげなワードでやいのやいのは、まあ好む人もいるかもしれませんが僕はもう食傷です。ラストなんてB級パニック映画ですよ。



対して、ベルの造形と思考の過程は良かった。

52]
ベルは、歯医者(ノノコ)たちが自分の運命を受け入れて、生き延びようとしないことに憤慨します。でも、ノノコから「長生きしたいの?」と問われると、何も言えなくなってしまう。ベルは単純に長く生きた方がいいと思っていたわけでもないけれど、あまり考えていなかった。とりあえず、生きていれば良い、運命に抗わないのは変だ、とぼんやり思っていたわけです。


20]25]
それがノノコや歯医者の価値観に触れることによって、変容していく様は見事だった。ベルは最終的に、自分の運命、すなわち自分の死に場所を、自分で決めようと決断します。だから、ノノコには歯医者にはなれないと伝えた。歯医者になることは、運命を自分では左右できないということですから。



美術・作画、そして世界観は素晴らしかったですね
流石はスタジオ・カラーといったところ

08]40]
ノスタルジーな淡い背景
いろんな時代の服装が混じってるじゃないですか、あれもまたいいんですよ
それだけ、彼らが「龍」を共通のものとして、結束している証拠なんで



00]49]
54]20]
前後編通じて、「流線背景+武器構えポーズ」のカットは過剰なほど多用されていた
戦闘シーンだともはやデフォルトになってたかなあ
均一的になっちゃったのは少し良くなかった



38]
ここのガヤは過剰すぎるかなあ。まあこれは多分、個人差があります。
僕だけかもしれんけど、情報量が多すぎて、ここで重要な奥の煙に目がいかん。
重要じゃなきゃ、こんな綿密に描き込まないだろう。


00]
ここも一緒。瓦礫だけでも、これだけ書き込んでいるのに、その上過剰にガヤを足している。
だから、ディテールはあまり考慮されていないのかと思えば、


55]21]
こういった居住空間の洗濯物や写真機のディテールは凝っていて、
彼らの生活がありありと想像できる良いカットがある。
とくに劇伴と供に流された日常のシーンは、素晴らしかった。



また日常シーンの中で良かったのは、龍が進路を変更するシーンで建物の軋むところ

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特に2カット目は良く出来ていて、bookスライドだけで、遠近と軋みを表現している 
引っ張られるワイヤー部分が傾いていく加減も良い




作画は言い出すとキリがないので一部のみ


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衝撃波のあとに発生する煙のタイミング



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ディテールは泡っぽくないのに、なんでか泡に見えて面白かった
CGのフォルムと動きで泡らしく見せていると思う


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一旦ドカンと広がったあとに、細かく伸びていく、分かれていく。押し出されるように展開するので、立体感も出る。前述のディテール過剰と違って、ここではタタキも効果的に働いている。
(※これ村木作画じゃん、なんで当時は反応しなかったんだろう[2024/01/17])


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この波は上手いCGかな
船先で割いたあと、左右に分かれるわけですが、微妙に振動しつつ後ろへ流れていく



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水中のゆらぎ


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滑り落ちるのを武器で支えて体勢を立て直しつつ、網を張る
下半身の力の移動が丁寧



総論として、前編は良かった、特にラスト1カットはやられたなあという感じで、楽しみに後編を待ってたけれど、あんなんじゃあなあ。龍の歯部分の世界観は、淡くて良かった。