田中宏紀はライトなアニメファンにも人気なアニメーターです。人気なのは分かるけれど、彼の本質はずっと理解できていなかった。派手で分かりやすいな~という評価でした。心から恥じ入る気持ち。ストライクウィッチーズを見て、唖然としました。特に、5話と10話は、田中宏紀作画の最高峰とも思います。これは惚れるなと。

彼の作画は、ストパンを見ているか見ていないかでがらっと印象・評価が変わる。田中宏紀においてストパンはきわめて重要度が高いと考えます。

もはや確固たる地位を築いている田中宏紀について、今更ですが書いていこう。



<1、田中宏紀の作画:パターン化>


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(5話Bパート-田中01)

ダイナミックに腕を振って、しなやかに走るシャーリーとルッキーニ。なんでこれだけ枚数と1シーンで、女の子がウキウキしながら、元気に海に飛び込もうとするまでの表現ができるのか。

ちょっとスローにしてみよう


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シャーリー・ルッキーニともに、腕は体の前で大きく動いてますね。女の子走り。走りに付いてくる髪の毛やおっぱいのリアクションもいいですが、ここは(我慢して)腕だけ見てください。やわらかい動きなのに、じつは単純で2つのパターンを繰り返している。


これ見ると分かる

ストパン05-010ストパン05-011

腕の角度に注目してください。びーんと「直線」に伸びているか、肘から先が曲がって「直角」になっているかの2つなんですよ。これを繰り返して、エネルギッシュな動きを表現している。



カメラ追い越しリーネちゃん(12話-田中02)
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腕はあるていど固定しておいて、手首はプルンプルンと



もうひとつの具体例として、みんな大好きおねえちゃんも


クロール・バルクホルン(5話-田中03)
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クロールっていうところがいいよね。この時期のバルクホルンの厳格さを表す。
この時期はね・・・

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ストパン05-036ストパン05-037

基本となるのは、やはり「直角」と「直線」ですよね。



001田中宏紀-腕・肘角度


直線、直角といえば、金田系(※アクションが決めポーズから決めポーズへと移る作画系統;金田伊功)ですね。田中宏紀は金田系っぽいけど、タイミングとかパースは金田系ほどはっちゃけていない。田中宏紀が金田系フォロワーがどうかは知らないけど、基礎は踏襲しているに違いない。それで、金田系の基礎ってなにかというと、「決めポーズのパターン作り」だと僕は思うんですよね。


・「ハ」の字の形:腕、足
ストパン05-068ハの字-01
(5話-田中04、05)

・「ヘ」の字の形:手首
手首-ク01手首-ク02
(5話-田中06、07)

このように手首を書くことによって、腕全体を退屈にせず柔らかさを出す

推測するに、田中宏紀は、たとえば「走り」については上記のようにパターン化していた。この時期にはすでに完成させていて、後はタイミングとディテールを中心に調整していたのではないかと。現象の映像や実写などから、いろいろなパターン・ストックを作っていった。




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(10話-田中08)

ストパン10.mkv_snapshot_19.07_[2019.05.31_07.01.45]ストパン10.mkv_snapshot_19.08_[2019.05.31_07.01.48]

この時期も今もそうですけど、「髪の毛」は彼の最たる特徴の一つですよね。ストパン研究の間に、盾の勇者を見てたんですけど、「あ、今のは田中の髪の毛じゃないかな」って感覚的に分かった。そこで、なんで分かったんだ?と。田中アクションなんて、ほとんど興味なかったのに。

僕らが、田中宏紀の髪の毛に気づける理由は、他のシーンとまったく異なっていたりするのもそうだけど、いちばんは作画の特徴が出ているからですよね。つまり、田中宏紀はすでにこの時期に多くのパターンを持っていて、いっけん縦横無尽な「髪の毛」にも実はパターンがあると思うんですよ(※ストパンだけでは分からなかった。「つ」の形っぽいんだけどな~確信に至れない、また分かれば書くかも)。




<2、パターン化の利点>

パターン・ストック化の利点は2つほどあります。まずは、原画を書くスピードが速くなる。この時期、田中宏紀はガンガン書きまくっていた。元々の手の速さというものもあるでしょうけど、流石にそれで全部片付けるのは少し強引ではないかなと以前から感じていたところで。もうひとつ、こっちの方が重要で、あるていどパターンが決まっていると、他のことに時間を使える。

つまり、レイアウトやタイミングなどに多くの時間を使える。ということは、そのクオリティは他よりも段違いのものになるはず。だから、次のような作画が可能になったのかなと。


サーカスするルッキーニ!(10話-田中09)
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ふんだんにカメラを動かすレイアウト。海面から始まり空中に至り、終盤では最初と反対方向まで画面を回す。センスもあるだろうけど、田中宏紀だって最初からこんな画面は思いつかないと思う。


他のアニメーターも(パターン化)してないわけじゃないけど、田中宏紀は確実に多くの引き出しを持っていた。そのおかげで、レイアウトの検討やカメラワーク、タイミングについて、大幅に他の人よりも考えられた。だからこそ、たくさんの仕事をこなせたし、その中においても、クオリティの高い作画ができた。いっけん天才と言われることが多いけれど、実は多くのパターンを彼は持っていて、かつ改善しているからこそ、今もなお最前線で戦えているのではないか。そのように思います。

<参考文献>
・田中宏紀パート?集Ver1.1