ヤマト01

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ワニくんの『~まで 残り(あと)◯日』というフレーズは、「まほろまてぃっく」が元ネタではないのか、という声が散見されました。しかし、もともと「宇宙戦艦ヤマト」の頃からありますので、これについては日本のサブカルチャー上ではとくだん珍しくもないかと思う。

まあ、要するに日本では受け入れられやすい・目を引く設定ではないかなと。ヤマトも毎週放送でしたから。古典的な方法に近い気がする。


さて、100日ワニくんについては、いろいろな想い・意見・批判が飛び交いました。ワニくんに生きていて欲しいだとか、100日目はどうなるんだ、商業展開が速すぎて仕組まれていたんじゃないのか。純粋に鑑賞したことや、あのときの感動を返して欲しいという言及まであった。相対的に見ていくと、モヤモヤが残った人が多いんじゃないんでしょうか。

モヤモヤが残った人にはおそらく、なんとも言えない気持ち悪さを抱いたと思います。では、この「ワニくんを巡る一連の流れ」は一体なにか。これは、オチがない「トゥルーマン・ショー」なんですよ。




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■トゥルーマン・ショー(1998)/主演:ジム・キャリー/脚本:アンドリュー・ニコル

今の人にとっては「イエスマン」の人であろうかジム・キャリー。昔は「マスク」の人で通じた。「トゥルーマン・ショー」はコンテンツの消費者をシニカルなオチであざ笑った傑作です。みんなが抱えているモヤモヤはこれでだいたい解決するとおもう。

名作ですから知らない人なんていないと思うけれど…
まずは、お話をざっくりと見ていきましょう。


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生命保険会社に勤める”トゥルーマン”はいつも笑顔なサラリーマン。
美しい妻を持ち親友もいて人生順風満帆といった感じ。


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しかし、そんな彼にも苦手な場所があった。それは水辺。子供の頃にボートが転覆して、一緒に乗っていった父親を亡くしてからは近寄ることすらできない。小さい橋すら渡れない。


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そしてある日、なんと死んだと思っていた父親を見かける。けれど、父親はすぐさま誰かに連れ去られてしまい話すこともできなかった。「父を見たんだ」と母親に言っても、妻に言っても「よくあることよ」と言われて信じてもらえない。


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自宅の地下室でふさぎ込みトゥルーマン。袋から取り出したのは、大学生時代の想い人・ローレンのカーディガン。右画像のおばさんが言う通り、そう「彼女を忘れられない」んだ。

え、いやいや、このおばさんはいったいだれだよ。
まるで彼のすべてを知っているかのような素振り。そう、残酷なことにこれはTVショーなのです。おばさんはそのいち視聴者で、トゥルーマン本人の生きている世界は「作りもののTV番組」だった。


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彼の生きる世界は、人工的に作られた巨大なドームの中によって全てが操作されていた。天気も、車の渋滞も、流れるラジオや、風景に至るまで。このTV番組に出てくる商品はすべて宣伝のためのものであり、この番組内宣伝(今風にいうと;プロダクト・プレイスメント)を行うことで、CMを挟むことなく24時間生放送を何十年も続けてきた。彼が望まれぬ子としてこの世に生まれてきてからずっと。水辺に恐怖症を持たせたのも、この世界から出ないようにするため。なんたることか。


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父親との再会をきっかけに、過去のローレン(本名:シルヴィア)の言葉を思い出す。「あなたはみんなに見られている、あなたの前で芝居をしている」と。トゥルーマンの世界に対する違和感はどんどん深まっていく。


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会ったこともない警官が、なぜか自分の名前を知っている。
口論の最中に、妻がなぜかココアをやたら詳しく紹介し飲もうと提案してくる。


この意味の分からない状況に、トゥルーマンの抱く違和感は最高潮に達し妻と刃物で喧嘩になってしまう。幸い大きな事件にはならなかったけれど、彼と世界のズレはもう限界だった。そんなズレを解消するために、番組のディレクターはある手を打つ。

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そう父親との再会だ。血縁的にはいっさい関係はない。視聴者を感動させるように、ディレクターはたっぷりと細かく演出する。カメラワークから音楽に至るまで。


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まるで宇宙飛行機の打ち上げに成功したかのような歓喜と祝福の表情。トゥルーマンが捨てられた子と分かっているはずなのに。ワニくんにも同じような「気持ち悪さ」があります。そして、それをみんな感じていた。だからモヤモヤしているはずです。



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さて、これでトゥルーマンが抱いた違和感も消えたかと思えば、そんなことはなかった。彼は正気に戻ったふりをして脱出を試みます。トゥルーマンがいないことに気付いた番組スタッフたちは、TVを止めエキストラを総動員して彼を探しますが、島のどこにもいない。


残るは──
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水辺は彼の最も苦手なところでした。それ以上にトゥルーマンは本当の世界が知りたい。隠しカメラには真実を求めシルヴィアを求めて、ボートに乗るトゥルーマンの姿が映る。ディレクターは彼をこの世界に戻すために、転覆ギリギリまで海を操作し彼の心を折ろうとしますが、



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ついぞ彼の心は折れなかった。そして、ついに”出口”へとたどり着く。この壁には僕も衝撃を受けましたよ驚いた。さて、彼は最後にディレクターに「何か話せ!TVに映っているんだぞ!」と言われ、次のように言います。


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つまり、自分のいつもの挨拶をしたんですね、ごきげんようと。


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脱出成功に、狂喜乱舞する視聴者たち。
この辺はワニくんで「感動した」と騒ぐ人たちと構造がいっしょですよね。



しかし、真にシニカルなのは最後の2カットなんだ。ぶっちゃけここまでは前フリにすぎない

★★★
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さっきまで「トゥルーマン・ショー」に夢中になっていた視聴者は、なんの余韻もなく、すぐさま別の番組に切り替えます。ここが凄まじい。これが冒頭に述べた、コンテンツの消費者をシニカルにあざ笑ったシーン。

TV番組「トゥルーマン・ショー」じたいが重要なのではなく、コンテンツじたいが流れている・存在していることが重要である。そんな視聴者だらけだろう?中身なんて関係ないだろう?そのときそのときにみんなで盛り上がれたら気持ち良いだろう?、という皮肉を本映画では明確に突きつけたわけです。




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(これは「日本誕生」における木上益治作画のワニ→研究本

誤解を招きたくないので、いちおう。ワニ本編=映画「トゥルーマン・ショー」ではありません。ワニを取り巻く胡散臭さや消費者の喜怒哀楽、これらを含めた状況が映画「(シニカルさのかけらもない)トゥルーマン・ショー」であると僕には見えた。考えていくと、そうにしか見えなくなった。だから、気色悪いなと思ったんです。シニカルさがない「トゥルーマン・ショー」というのはすなわち、このオチである2カットがない、ただトゥルーマンの脱出劇を喜んで終わりというだけですから。

シニカルかどうかはどうでもよくて、創作作品なのにオチがないからみんな困っている。「ワニくんの死んだことでオチてるやん!」と思われる方もいらっしゃるだろう。いや、ワニくんの死というのは、「トゥルーマン・ショー」における「脱出成功」なんですよ。つまり、あらかじめ決まって(予期されて)いること。ワニくんの死んだ後の、その先のオチがないと完成しないんですよ、こういうメタ作品は。

たとえば、ねず公が黒幕でした、でもそれなりに納得できる。賛否は分かれるだろうけど、ただ読者に与えられたメタ情報(100日後に死ぬ)がそのまま遂行されただけでは完成しない。クリエイターとしては最低です。オチを放棄したので賛否もクソもない。だから、みんなモヤモヤして困っている。

それなのに、なんか知らないけど、1時間も経たないうちに、当然いきものがかりが何か歌うらしいし書籍化もされる、映画化もされる。そりゃモヤモヤも増してとうぜん。ステマ・広告代理店案件と言ってもいいけど、それより僕らがこの件で学ぶべき教訓はトゥルーマンの思考です。

流されず、自分の目で見て、自分が考えた・感じたことを受け取って、前進していく。自分の判断力を十全に信じ切ってあげる。まあ作品が、何らかの組織的な操作や仕掛けをされているといった単純なことでも萎えますけどね。もちろん。それはもはや作品ではありません、棚に陳列される商品です。


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あとはなんか調べていくうちに、面白そうなワニの絵本が多かったのでそのリンクだけ貼っときます。あんなものを読むくらいだったら、もっと有意義なワニの絵本買いましょう。拝金主義は怖い。以上。

ワニの絵本
https://00m.in/LARAe