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2025-1

カテゴリ: 1980年代アニメ

「王立宇宙軍」には、シロツグの同僚たちがロケットの打ち上げ失敗ビデオ見ているシーンがあります。このシーンの爆発はとても見事なんですが、ある疑問があったので考えてみる。全部で3カット。



■「王立宇宙軍(劇場/1987)」/劇中ビデオ3カット

打ち上げ失敗その1:庵野作画(※推測)
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モノクロなので少し見にくいですね。じんわりと横に広がる煙、カゲ2色。当時の庵野作画とフォルムもタイミングも似ているし、まあこれは庵野秀明によるもの(作監修正の可能性も含む)と考えてよい。これは別に問題ない。作監の庵野がやっただろう。


打ち上げ失敗その2:増尾作画?(※推測)
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さっきのヤツとは、タイミングも煙の形もカゲも違っている。手前に進んでくる煙がめっちゃ良いんですが、増尾作画のように思います。助監督の増尾なら、これも問題ない。問題は次のカット。



★打ち上げ失敗その3:?作画
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これめちゃ上手いっすよね。劇中ビデオに使われているのがもったいないくらいに、爆発のタイミングといい、カゲの付け方といいキレイ。んで、疑問に思ったことなんだけど、なんでこんなキレイな爆発をここにもってきたのか。そういった点が引っかかったんですよ。こんなに上手い爆発を書ける人なら、ラストの戦闘シーンでもたくさん書いてもらった方が良いに決まっている。

でも、このようなフォルム・タイミングの爆発はラストのシーンでは見られないんです。当時、若手スタッフ主導で進めていた王立なら尚更書いてもらった方が助かるはずなのに。とすると、それができなかった理由があるのではないか。

その一つとして、これを書いたのは、作画から見て本谷利明さんではないかと思うんですよ僕は。


コントラスト調整版:本谷利明作画(※推測)
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そう、あの本谷利明です。この時期の彼の参加作品は、「AKIRA(1988)」「ヘル・ターゲット(1987)」という感じ。当時の本谷作画が緻密で写実的だったのは、言うまでもなく。カゲ2色で、ゆっくりとしたタイミングでタコ足煙が伸びていく。上の爆発と比較してみましょう。


ヘル・ターゲット(OVA/1987):本谷作画
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なんとなくわかりますかね。爆発のフォルムが大小入り乱れており、メインは大きな楕円となっている。煙と煙の間の濃いカゲの入れ方や、タコ足煙や滞留の感じが似ている。

王立ビデオパート検証

水色の円はトゲトゲの炎のディテールで、赤色は濃いカゲの部分ですね。トゲトゲディテールは意外と見過ごしていました、もしかしたら、この時期の本谷爆発の特徴かもしれない。

それで、この爆発が本谷さんだと思ったのは、もう1点あって。成人漫画家の森野うさぎさんによる本谷利明インタビューのこの部分を読んでもらいたい。

★お手数ですがいままでやられた作品を教えて下さい。
(中略)
森「アニメのほうは?」
本「これは多いから、じゃ、映画だけね。
「オネアミスの翼」原画。ちょっとだけしかやってない。プロデューサーとけんかしてすぐに辞めた。
パイロットフィルムの時の方が、カット数が多いくらいだ。ガイナックスと相性が悪いな、俺。
Gが頭文字の会社とはけんかばっかりしてるな。ガイナックスとかゲームアーツとか。」
http://www4.plala.or.jp/croh/gvdb/morino99dec26.html から引用
こういうソースを信用しすぎるのもあれなんですが、「鋼の鬼」「AKIRA」であれだけクオリティの高い煙や爆発を書いている本谷さんを、当時のアニメ演出家が使おうとしないわけないんですよ。これは間違いない。例外なく、ガイナックスも参加を打診したけれど、まあ途中でトラブルった。

――ここからはかなりの推測になりますが、ガイナが本谷へ参加を打診した。んで、王立で原画を何カットか書いている途中で、プロデューサーと揉めて辞退。本当はもっとガッツリやってもらう予定だった。こういう流れだったと推測。だとすると、この本谷原画ってガイナックスにとっては、「扱いにくいモノ」ではないですかね。本人は辞めちゃった、けど、すげえ上手い爆発の原画が残っている。辞退したからといって、これを処分するのはあまりにもったいない。活かしたい。そういうわけで、あの劇中ビデオシーンに使われたのではないかと思うのです。


まあ、とにかもくにも、こういったわけで、その3については本谷作画だと思います。王立宇宙軍の本谷パートがずっと気になっていたので、今回少し記事にしました。

最初の頃は、排水溝での戦闘シーンだと思っていたんだけど、調べていくうちに木上作画と判明した。次に「橋のシーンではなかろうか」と知人と話していたので、ここなのかなあとぼんやり思っていたけど確信に至るほどでもなく、ずっと放置していた。

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それで、80年代の増尾作画をたくさん見てから、件の橋のシーンを見返すと、ここは増尾さんっぽくないなあと感じた部分があって。それは、煙の輪郭がギザギザになっている部分(※鴨川作画的なジャギー)で、こんな輪郭はどの時代においても増尾さんは描いてない。だとすると、「AKIRA」だけギザギザしてるのは変じゃねえかなあと思い始めた。


ここで排水溝のシーンを見てもらいたいんだけど、こんな煙が出てくる。

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「AKIRA」において、ギザギザ輪郭煙はこの排水溝と橋の崩壊シーンのみ(自分調べ、後は本谷シーケンス)。排水溝のシーンをぜんぶ木上さんがやったと仮定すると、橋のシーンもおそらく木上さんという事になる。木上さんじゃないかもしれないけど、とりあえず増尾さんでもない。


じゃあ増尾はどこなんだよ、ということなんだけど、これが殆ど分からん。むずい。


最初に確認しておきたいんですが、AKIRA前後の増尾参加作品はこんな感じです。

・プロジェクトA子(劇場/1986)
・大魔獣激闘 鋼の鬼(OVA/1987) 
・破邪大星ダンガイオー(OVA/1987) 01話
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・AKIRA(劇場/1988)
 
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・トップをねらえ! Gun Buster(OVA/1988-89)
・メタルスキンパニック MADOX-01(OVA/1988) 
・クラッシャージョウ 氷結監獄の罠(OVA/1989)
・クラッシャージョウ 最終兵器アッシュ(OVA/1989)

(  ^ω^)…チョットコマル


19]10]
04]35]

①のAKIRA以前では、まん丸の球形のフォルムで何個も重なってという感じの煙。簡単にいえば、増尾作画が板野系の時代である。「ポップチェイサー」とかも①に入るんだけど、まずシンプルな球形のフォルムがあって、縁取りをするようにブラシが入る。そんな作画をする。この時代は基本的にフォルムに無頓着。



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(※静止画で申し訳ないが、大体伝わると思う)

②のAKIRA以降になると、フォルムがまったく変わる。それまでは、シンプルな球形を何個も使うことで全体を構成していたんだけれど、ここからは全体のフォルムを重視するようになる。全体のフォルムをボコボコした輪郭で描いた後で、爆発内部(表面)にディテールを入れていく。


①、②で共通しているのは、白コマくらい。タイミングも①では結構勢い重視のドカドカ系なんだけど、②ではもうちょっとタメを意識したしっかり系で、けっこう違う。そんで、何がチョットコマルかというと、まずどっちの区分に入るのかはっきりと断定できないこと。すなわち、「AKIRA」における増尾作画が、板野系の単純なフォルムなのか、全体のフォルムを重視したものなのかが断定できない。

ただまあ「AKIRA」はみなさんご存知の通り、コテッコテのリアル系作画。そんで、見直しても殆ど板野調の煙・爆発は出てこない。だから、まあおおよそ②だろうという推測でお話を進めていく。

何度も言うけど、②は全体のフォルムを重視したものであり、①のシンプルな球形の集合とは全く異なるエフェクトであることを留意されたい。



それで、この②の作画+白コマを原則として考えていった時に、僕が一番「増尾作画らしい」と思えたのは次のシーン(※完全なる推測なので注意)。

ヘリ落下爆発
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鉄雄の戦車破壊
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しかし、少し増尾っぽくないなあというところもある。例えば、ヘリが爆発してからベチャっとした原画があるんだけど、こういうのはあまり増尾作画では見ない。うーむ、難しい。やはり①で考えた方がいいのか?と思い直し①のリストを見直していると、驚くべき発見があった。



・「大魔獣激闘 鋼の鬼(OVA/1987)」 増尾パート
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「大魔獣激闘 鋼の鬼」における増尾作画は、シンプルな球形のフォルムの集合というよりは全体のフォルムを重視したものになっているのだ。なんという見落とし。これまで、AKIRAに影響されて、①→②になったという仮定の元やってきたので、これは大きな発見だ。


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となると、AKIRA以前、正確には「鋼の鬼」以前に何らかの影響がなくてはこういった作画にはならない。鋼の鬼は1987年発売(1987年12月公開発売)である。


1987年といえば、あっ…

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(はよ続編のパイロットフィルムだけでも作れや何やってんねん)

これじゃないですか!GAINAXの処女作「王立宇宙軍」。未だAKIRAとともに日本のジャパニメーションを象徴する作品。これに増尾は助監督で関わっている。この作品における、もっとも影響を与えたエフェクトといえばこれしかない。


・「王立宇宙軍(劇場/1987)」 庵野パート
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そうだ、庵野パートだ。そう、この部分の考慮を忘れている。増尾が助監督としてどこまで踏み込んだかは定かでないけども、あの緻密な作画と写実への執念を間近で1年くらい見ていたのは間違いない。灯台下暗しとは、まさしくこのこと。もしかすると、あの時期の増尾は、王立の庵野作画からすごく影響を受けたのではないか。


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その結果、「AKIRA」において(王立庵野のような)密度が高い作画になったのではなかろうか。ヘリ落下や戦車の爆発は、全体のフォルムを重視しており、その上写実性を高めるためのディテールの密度も濃い。


そういう風な考えを前提とすると、なんでその高密度な作画がAKIRAだけだったのかという疑問が生じる。王立の庵野作画にあこがれて、AKIRAで存分に発揮したとするならば、その後も継続してやろうと思うのが普通だ。なんで、増尾はいったん憧れた庵野系作画を捨てるに至ったのか。


ここからはすごく強引な推測になるんだけれど、

増尾は、たぶんAKIRAで庵野作画の完全な模倣は無理だと悟った。「いやこんなん普段もやれって言われても無理やし」みたいな。それで、テレビアニメからOVAに至るまで大活躍の当時においては、たくさん爆発やらメカやら描かなきゃいけないから、量産向きではないと増尾が判断した。だけど、やはり庵野系の模倣・発展というのをやりたいと思った結果、増尾作画の中に残ったのがあの全体的なフォルムではないのかなと。

・「クラッシャージョウ 氷結監獄の罠(OVA/1989)」 増尾パート
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せめてこれだけでもリアルに描きたいと思って残したのがこの全体的なボコボコフォルムであり、これが1988年以降(「クラッシャージョウ」「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」)の増尾作画の基礎となった、と思います。



~まとめ~

増尾昭一が作画スタイルを変えるほどに影響を受けたのはAKIRAの本谷作画と考えてきたけども、それは違っていて、実はその前の王立庵野に多大なる影響を受けていた。その結果、それまでの勢い系(板野調+アニメ的デフォルメ重視)よりも写実性(すなわち、庵野系)を重んじる作画に変化した。AKIRAでその庵野系を試してみたはいいものの、これは量産には向いてねーわってことで、フォルムだけの模倣に留まった。

「AKIRAの増尾作画が特殊な件」に関しては、こういうことではなかろうかなと。 



2015年は、増尾に始まって増尾に終わった年でした。
来年はどうなることやら…よいお年を。

とりあえず、置いとくというやつです

OP:板野背動
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板野もガンダム・イデからマクロスへ至る煙とかの流れを見て行きたいですね

27話「愛は流れる」:庵野爆発

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一瞬間をおいての、爆発で写実性を出す。

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爆風によって流れていく、煙と破片。
破片は細かい動きまで書き込まれていて爽快。

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雲が消えて、どーんと爆発。
着火前に、一枚タメがあるのが爆発にテンポをもたらす。

雲が消え去る前のカットも庵野だと思いますけど、どうでせうね。
後、珍しく師匠AMVも上がっていたので、紹介。


このメンツなら千年女優が入らないと変な感じもしますが…

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