まず「バレットタイム」とは、キャラ(被写体)の周りにカメラを多数設置して、キャラの動きをスローモーションのように撮影するという、SFXの一種です。結果的に、カメラは高速に動いているように見えます。この手法は、映画『マトリックス(2000)』 で一躍有名となり、2000年代の映像作品では多く用いられた手法でもあります。(※『マトリックス』では、200台近くのスチルカメラを用いて高速度撮影を表現しました。)

■『マトリックス(2000)』 バレットタイム
 
(※約2分くらいから)

で、そのメイキング映像がこちら。



日本のアニメ『マッハgogogo(1965)』 でも似た技法が使われていたり、19世紀の写真家エドワード・マイブリッジに起点を求める説もあり、誰が考案・発明したのかは微妙なところですが、大いに知名度を上げた点では『マトリックス』が発明したとも言えます。子供の頃は毎日のように、VHSで例の銃撃戦パートと地下鉄パートを飽きるまで見ていたので、個人的にはこういうの大好物です。

また回り込みとは、簡単に言うと、キャラの周りをぐるーっとカメラが回って撮るヤツです。これは確かハリウッドで誰かが、レール台車を用いて、被写体の周りを円周で撮るのをやってから、皆こぞって真似したのが始まりであったような気がします。(※ハリウッドにおける空撮のムーブメントと同じですね。)回り込みについては、キャラ作画だけでなく、ローアングルから回り込むなどバレットタイムと同じく、カメラワークにも大きな魅力があります。

ここでは、アニメにおけるバレットタイムや回り込みを見て行きたいと思います。回り込み・バレットタイムという表現手法は、アニメーションと非常に親和性が高いと、僕は思うんですよ。何故かと言うと、映画でのバレットタイムはコマ撮りで1枚1枚の絵をつなぎあわせて完成する点で、アニメーションの作り方と同じだからです。(※これは、ストップモーションアニメ全般に言えることですが。)まあ要するに、映画でもアニメでも、一連の静止画を連続させて映像になっているよね、ということです。

◆バレットタイムの技術的要件
1、被写体が、その場で(結果的に)スローモーション、もしくは静止した状態
2、カメラが、被写体の周りを高速移動する(※もしくは輪切り的なカメラ移動)
3、カメラが、立体的なワーキングをする(※必須ではない)

この3つの要件が必要だと、僕は思っています。また要件別で言うと、2が最も重要です。3については、あった方がよりカッコいいというだけです。2については、「輪切りのように(細かい角度別に)撮ったショットを連続して繋げる」というような言い換えもできます。つまり、カメラがそれほど高速で動かなくても、バレットタイムとなり得るカットは存在するということです。

また理論的には、作品内をそれまで通っていた時間軸を完全に無視し、そこだけ瞬間の時間軸を作ることが特徴です。アニメ内の時間の流れはほぼ現実世界とは変わりありませんが、急激に時間の流れが変わる瞬間があるのです。つまり、バレットタイムの瞬間にだけ、特別な時間と空間が生まれるということです。なんかロマンチックだな…


まずは、ごちうさのバレットタイムを紹介。

■『ご注文はうさぎですか?(2014)』 8話
20140809111603

リゼが射撃を終え、振り向く様子。背景は3DCGレイアウトではなく、美術によって広角に歪められた背景を右に引き、終わり頃に寄ることによりパースの変化を表現する(※特別BG右引き+ラストTU)。美術背景で意外と細かく、面白いことをやっているのが伺える。ごちうさ、なかなか侮れない。



スライダー作ってみました。特に、これはオモチャみたいに「うおっなんだこれ」という感じになるのでオススメ。今回、それぞれに一応作ってます。


■『みなみけ(2007)』 1話
20140809111604

カナがラブレターをもらった驚きの誇張表現。バレットタイム・カメラワークは、ただ高速で移動するだけでなく、立体的な動きも魅力。ここでは見て分かる通り、CG背景を使用している。こういった回り込み・バレットタイムにおいては、パースペクティブは動くたびに変わるので、当然かもしれない。キャラはセル作画。



カナの頭が通り過ぎた後に、瞬間で変化するハルカ姉様の表情。驚きから怒りへ。これ上手いっすね。あれですよ、電車とか車がバーンとキャラの前通ると表情とか状況とか変わるヤツの応用みたいな感じだと思います。



■『Fate/Zero(2012)』 24話 
20140810232729

言峰と切嗣との最終決戦。サーヴァントいらねーよバトル。言峰がダッシュした後、2人の時間だけがまさに静止する。カメラは高速かつ立体的なワーキング、具体的には、カメラがやや煽りのアングルで切嗣へと寄って行き、言峰に向かう頃には若干俯瞰になっている。ラストの方では真上からのアングルへと移り変わり、カメラは回転しながら上へと吹き抜けていく。その後、聖杯からドロドロと出てくるのは、2人以外の時間軸は今も動いているという証明のようなもの。



ここでの注目すべきなのは、それぞれのキャラの顔に寄りつつ、バレットタイムを演出している点。言峰と切嗣の戦闘のラストとも言える大一番で、ここまでの戦闘を振り返るように、それぞれのキャラにクローズアップしている。


■『黒塚(2008)』 1話
20140811093359

放たれた多数の弓矢に囲まれるシーン。カメラは高速に回った後、じんわりと少しだけ回りこむ。主人公の主観的な時間を表現し、なおかつ画面の臨場感・ダイナミックさも保っている。



最初の方のブラーというかピンぼけ表現は、それまで流れていた作品内における時間を抜け、主人公の主観的な時間に入っていくことを表している。


■『黒塚(2008)』 同1話
20140811093400

主人公が向かう方向とは逆方向にカメラは移動し、敵の頭上に主人公が来てからは回り込みながら、最後にTUする。CG背景との兼ね合いで、全コマ拾えてないから、本来映像とは違う部分もあるので、実際の映像を参照されたし。



最後のTU(トラックアップ)がいい味を出している。カット全体のまとまりとして、カメラが高速に回った後TUするのは、先程の『ごちうさ8話』でも見受けられたので、手法として確立されつつあるのかもしれない。


■『フリクリ(2000)』 1話
20140811205657

ハル子がチューするシーン。CG背景だが、デフォルメ化されたキャラをグリグリ作画で描いて動かしている。ここはカメラが低い位置を通って、高い位置に抜けていくのもまた見所。




画像のデータ量の関係で2分割。こういったバレットタイムですが、今は3DCGで大体の動きを出力して、それをアタリに実際の線画を書くとか聞いたけど、実際どうなんすかね。制作工程に興味ある。ちなみに『フリクリ』のこれは、レンダリング(出力・撮影)にも相当の手間がかかったらしい。

今回は、これぐらい。



バレットタイム表現の意図は、作品の象徴を作る事にあると思います。『マトリックス』だと、「ネオが銃弾を避けるシーン」が、皆の印象の共通項=象徴となっているように、「○○ってこんな作品だよね」という事を簡易的に表すためには、具現化された象徴たるシーン(※皆の印象に残っていて、かつ物語全体を表すようなシーン)が必要不可欠です。

他の側面から見ると、アニメ作品におけるデフォルメされたキャラの挿入や、劇画調でのギャグと同じく、映像全体が画一的にならないように、バレットタイム・回り込みといったカットをインサートしている。つまり、画面にメリハリを出す意図もあるように思います。カメラがFIX(固定)のままだと、どうしても画面・映像全体にマンネリが少し出てきます。しかし、ここにバレットタイム・回り込みを含む、トリッキーなカメラワークを加えることで、自然と視聴者が見入ってしまう映像ができるのです。バレットタイムにかぎらず、PAN、付けPAN、細かい撮影指示を含む動画、背景動画などで、画面のダレは解消されるばかりでなく、映像としての見所にもなり得ます。


リファレンス:やってみたくなる撮影技法~素晴らしい新アイデアまとめ 
      :マトリックスのようなバレットタイム映像まとめ

今回はバレットタイムを中心に見てきました。
次回は、色んな面白い回り込み作画の魅力を紹介できればいいなあと思ってます。