今回はアニメーションにおける桜の表現に関して、少しお話をしたいと思います。
[追記]コマ打ちに関して、訂正箇所があります。)


まず、「アニメで桜」といえば、これを思い浮かべる人がおそらく多いのではないのかなと。

・「秒速5センチメートル(2007/劇場)」
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同スロー
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新海誠の代表作。やはり桜といえば、コレですね。

この桜の花びらの散り方は、3コマ[訂正]2コマ打ちです。しかもキャラのタイミング(キャラも2コマ)と同調して流れていく。そのためシンクロ感があって、とても気持ちの良いシークエンスになっている。

また細かいことを言うと、画面右上の桜の花びらは影を考慮されたものになっています。奥側右にスーッと消えていく花びらは明度が下げられていて、少し暗めになっているんですね。細部のディテールへのこだわりがこの画で伺えます。


<1、死生観からの発展、別れ・迷いの表現>

桜の花びらというのは、死生観を示唆することが多いです。桜の刹那性は「秒速」によって示されている通りで、これは人の死生観にも通じる所があります。その死生観から分岐し、「別れ」「出会い」「迷い」など不安定・複雑な感情を表現するのにとても効果的で、よく使われます。

・「ちはやふる(2011/TV)」 05話
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ちはやが新と再会する直前のシーン。太一がちはやに思いを寄せていながら、ちはやの心は新の方に傾いている。それぞれの思いが交錯している場面です。

ここでは桜はCGで1コマ。対してキャラは3コマで描かれおり、桜の方がこの画面では主役になっています。手前の桜は、ややボヤかされており、ちはやの曖昧な感情が表現されている。


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桜の枝の密着マルチと、花びらの散り方が美しいシーン。ここの密着マルチは、風によって動く枝の微妙な動きを上手く再現していて素晴らしい。手前に大きく流れる1コマの桜の花びらも、画面の密度を程よく増していて良い。


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ここはやや煽りのアングルですね。
桜は一つ目のgifと同じく1コマで、存在感を出しつつもキャラを邪魔しないように描かれている。名脇役みたいな感じ。



<2、新たな変化の前兆・予感・前ぶれ>

また桜といえば、新学期、進学、新生活など「心機一転」を思いを浮かべることが多く、「変化の前兆・予感」というシーンでも使われることが多いです。

・「CLANNAD(2007/TV)」 01話
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岡崎と渚の出会いのシーン。
モノクロの画面から一気にカラフルになっていく。トラックアップによって奥行きある画面になっています。BGの動かし方もまた良い。後、この桜の花びらは一見1コマっぽいんですが、実は3コマ。キャラとの同調具合が、「秒速」と同じく心地良い。


・「四月は君の嘘(2014/TV)」 01話
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最近だと、やっぱりこれですね。「君嘘」です。河野作画。
2個のgifともに、桜、キャラとも3コマで描かれていますが、両者のタイミングは1コマ分ズレており、そのおかげで桜・キャラともに映えるシークエンスとなっています。

[訂正]1つ目2つ目のgifともに、桜は2コマ打ちです。キャラに関しては、1つ目が3コマ打ちで、2つ目は2コマ3コマ打ちが混在しています。画像見直して見ると、確かに桜は3コマ打ちではなかった…1コマ分ズレているという感覚は、「コマ打ちの違い」ということに起因していました。誤った情報を伝えて申し訳ないです。ご指摘ありがとうございます。



・「彼氏彼女の事情(1998/TV)」 08話
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有馬が宮沢に対しての恋心にやっと気付くシーン。宮沢への恋心の知覚というのを、桜によってショック的に表現している。1カット目でぶわっとなりますよね。それがハッとした感じを出している。

これだけ昔の桜作画です。2カット目は止め絵でスライドさせているのみ。この他にも、この08話では桜の表現が見られるのですが、技術的な問題(※CGが未発達なので、手書き作画しなければならない)があり、リピート作画などで描写していました。「桜の花びらが散る」というパーティクルな描写は、極端に言うと「王立庵野作画(参考)」と同値であり、とても負担が大きい。だから、CG未発達の時代ではさほど使われなかったものと推測しています。多分、(出来ることなら)桜を使いたい演出家は山ほどいた。


・「D.C.II 〜ダ・カーポII〜(2007/TV)」 01話
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小愛が告白するシーン。告白の前ぶれ・フラグ的なものを演出すると同時に、小愛の緊張と不安が入り混じった複雑な心情を表現しているように感じます。

特に2個目の桜の花びらは美しい。キャラは3コマで描かれ、桜はCGで1コマ。これによって、キャラの動きは相対的にゆっくりとした印象になり、結果的に小愛の気持ちの大きさ、告白シーン全体の重さというのを上手く表現しています。



桜の花びらが散るというのは、二面性がある表現だと考えています。一つは「迷い」「別れ」「死」といったネガティブな表現であり、もう一方は「出会い」「変化」といったポジティブなものです。この二面性は、死生観から発展してきた点ではある意味当然なのかもしれません。また、桜のパーティクル(粒子的)な部分は複雑な心情を表現するのにも効果的です。よく使われるのも納得できる。

桜表現の発展は、技術革新が大きな要因です。1990年代では、『彼氏彼女の事情(1998)』のようにBOOKのスライドで表現するか、作画でリピートさせるかぐらいしか選択肢はありませんでしたが、今はCGの発達に表現方法がよりイージーになっています。コンピューターによりセル時代では制限があった色の数が無限大になったことが代表的ですが、技術の発展というのは演出や表現の幅を広げます。もちろん、そこにクリエイターの想像力や創意工夫が無ければ無意味、というのは言うまでもありません。どちらか片方では中々上手く行きません。技術と想像の相乗効果によって、表現は加速していきます。



<参考文献>

「銀魂」考 第3回鎮魂とカーニバル その3 「桜は死と再生の樹」と「国ほめ」-物語を物語る
「ちはやふる」舞台探訪004芦原温泉駅とその周辺(アニメ5話)-不定期人生作業日報(仮)
庵野秀明氏、エヴァに登場する声と線だけのアニメについて「最低限の情報量で作りたかった」 #ニコニコ超会議2015