「密着マルチ」の技法については、よく説明されますが、効果や魅力はあまり語られない。そして、言葉が何となくわかりにくい。よって、密着マルチの面白さが伝わりにくい。つうか、俺もよく分かってなかった。

まあ、ちょっと具体例を見ましょう。


★神撃のバハムート GENESIS/ED(TV/2014)
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山本沙代コンテ。多くの植物を通り抜けた先に、横たわることで神秘さを出す。植物の動きに注目されたい。それぞれ微妙に速度が異なって、多層感を出してますよね。


こういった画を見て多くの人が思う/抱くのは、「(密着マルチを使うことで)どこらへんが画期的で面白いのか?」ということだと思うんですよ。



<密着マルチの3段階>

1、目的:「運動視差」を利用して、奥行きを表現するため

2、技法:それぞれ異なった速度で、それぞれの素材を引く

3、効果:平面なはずのアニメに奥行が感じられる

現時点では「ほーん」ぐらいの気持ちでいてください。まず、運動視差ですが、これは映像を見てもらった方が速いと思う。


・新幹線からの車窓映像(引用元
 

カメラに近い物体はヒュンヒュンと速いスピードで動き、遠くなればなるほど、ゆっくりと動く。これが「運動視差」です。新幹線とか電車乗ると、よくわかりますよね。あのビルあんま動かないけど、線路内の柵はめっちゃ速く動くわ~みたいな。



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現実では、ごくごく当たり前の事ですが、アニメーションの世界では、これを表現するのが大変に困難だった。なぜかというと、近くと遠くで、素材(ミッ◯ーや、木、柵など)を引く速度をそれぞれ変える必要があったため。アニメーション黎明期は、図1のような撮影台でアニメを作っていました。


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(図1:撮影台の一例)

この撮影台にも、素材を引く速度を調整する装置(スライド装置)はありました。しかし、この撮影台は一つの速度しか作れない。これでは、遠近で異なった速度から生まれる、運動視差が描写できない。結果として、画面の奥行きを表現することは非常に困難なままでした。

だけど、アニメーションに奥行が欲しい。なんとかして、立体を感じる元である、運動視差をアニメに持ち込みたい。そう思った先人は、マルチプレーン・カメラというものを発明します。このマルチプレーン・カメラの変わったところは、撮影台の多さです。素材を載せる台が、一つではなく、複数あったんですね。基本は4台でしたが、「ファンタジア」では、最大なんと9台も使われた。スライド装置も各台にあったので、それぞれ異なる速度で、複数の素材を引くことが可能になった。


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これは練馬の博物館に飾ってある、マルチプレーン・カメラです。複数の撮影台のおかげで、「近くの木は速く動かして、遠くのお城はゆっくり動かそう」という事が可能になった。マルチプレーン・カメラぱねえ、最強すぎる。これを使って、描かれた名シーンがこちら。



★白雪姫(劇場/1937)
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手前の樹木は速く動き、奥の木や霧の背景はゆっくり動いていますよね。で、平面であるはずのアニメに、なんと奥行が感じられる。こりゃすげえや、となって、こぞってどこの会社も使い始めます。しかし、そう長くはマルチプレーン・カメラの覇権は続かない。

「改良型が出たのかな?」と思われる方もいるかもしれない。いや違うんです。まず、こいつクソでかいからスタジオ内で場所を取ってしまう。そして、こいつ自体に高い金がかかる上に、樹木や家などの背景素材をこいつ専用にアレンジしなきゃいけない。つまり、コストが半端なくかかる。んで、こいつ全然、最強じゃねえや金食い虫が!ということで、使う会社はだんだんと減少していく。マルチプレーン・カメラくんかわいそう。


でも、やっぱり、アニメに奥行/立体感は欲しいわけです。贅沢だな。

どのような経路を通ったか不明ですが、ついに、一つの撮影台で、マルチプレーン・カメラの効果を再現することに成功しました。はい、そうです。これが「密着マルチ」です。大事なことなので、もう一度言います。マルチプレーン・カメラ効果の再現が、密着マルチです(被写界深度の件は割愛)。ちなみに、この呼び方は日本でのみ。

※撮影台については、こちらのサイト様がビジュアル的に分かりやすいので、参考にしてもらいたい。
★撮影台 http://www.da-tools.com/junk/cn25/camStand.html


なんで、「密着マルチ」と呼ぶのか?これは2つの説がある。

■1:「マルチ」プレーン・カメラ時代には、台ごとを「密着」させる必要があったから
■2:今は素材を「密着」させて、「マルチ」プレーン・カメラの効果を再現しているから

どっちかは不明。用語なんてそんなもんなんで、深く考えないでください。「土用の丑の日」だって、平賀源内がホラ吹いたようなもんでしょう。思ってるよりテキトーなんですよ、世の中って。





さて、目的と技法については分かってもらえたと思います。残るは魅力ですね。実際の作品で使われたものを通して、見ていきましょう。



★COPPELION 04話(TV/2013)★★
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雲book密着SL+建物Follow

以前紹介しましたが再度。やはりこれ素晴らしいんですよ。密着マルチによって、雲の大きさ/多層感を先に見せておいて、地上の主人公までカメラを引っ張ってくる。空や雲と主人公、戦闘機を一つのカットに収めている上に、最後には戦闘機と主人公を対比して見せる。



★神さまのいない日曜日 03話(TV/2013)
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泣いている少女の周りを墓標が回り込んでいく。少女の眼前を通過する墓標は、彼女の気持ちにお構いなしに世界が回っているということ。


★★
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墓標book5個ほどSL+逆方向にBGをSL

ロングショットから速くbookを引くことで、少女の孤独さを強調する。ここでも、遠い墓標と近い墓標では、速度に差があることに注目しながら見て欲しい。ボカシもいい。


密着マルチの基本は、奥行/立体感です。ただ、それから派生して、「神さまのいない日曜日」の情景描写や「COPPELION」のような大きさの対比表現もできる。使う人のセンスによって、表現の幅が広がっていく。それが面白いところです。ただ単に「奥行」だけという、単一な描写に留まらない。複数の素材を異なったスピードで引くだけで、少女の切ない感情が表現できるって素晴らしいと思うんですよ。


<参考文献>
アニメーション撮影台-練馬区
立体撮影2
撮影台