「王立宇宙軍」には、シロツグの同僚たちがロケットの打ち上げ失敗ビデオ見ているシーンがあります。このシーンの爆発はとても見事なんですが、ある疑問があったので考えてみる。全部で3カット。



■「王立宇宙軍(劇場/1987)」/劇中ビデオ3カット

打ち上げ失敗その1:庵野作画(※推測)
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モノクロなので少し見にくいですね。じんわりと横に広がる煙、カゲ2色。当時の庵野作画とフォルムもタイミングも似ているし、まあこれは庵野秀明によるもの(作監修正の可能性も含む)と考えてよい。これは別に問題ない。作監の庵野がやっただろう。


打ち上げ失敗その2:増尾作画?(※推測)
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さっきのヤツとは、タイミングも煙の形もカゲも違っている。手前に進んでくる煙がめっちゃ良いんですが、増尾作画のように思います。助監督の増尾なら、これも問題ない。問題は次のカット。



★打ち上げ失敗その3:?作画
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これめちゃ上手いっすよね。劇中ビデオに使われているのがもったいないくらいに、爆発のタイミングといい、カゲの付け方といいキレイ。んで、疑問に思ったことなんだけど、なんでこんなキレイな爆発をここにもってきたのか。そういった点が引っかかったんですよ。こんなに上手い爆発を書ける人なら、ラストの戦闘シーンでもたくさん書いてもらった方が良いに決まっている。

でも、このようなフォルム・タイミングの爆発はラストのシーンでは見られないんです。当時、若手スタッフ主導で進めていた王立なら尚更書いてもらった方が助かるはずなのに。とすると、それができなかった理由があるのではないか。

その一つとして、これを書いたのは、作画から見て本谷利明さんではないかと思うんですよ僕は。


コントラスト調整版:本谷利明作画(※推測)
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そう、あの本谷利明です。この時期の彼の参加作品は、「AKIRA(1988)」「ヘル・ターゲット(1987)」という感じ。当時の本谷作画が緻密で写実的だったのは、言うまでもなく。カゲ2色で、ゆっくりとしたタイミングでタコ足煙が伸びていく。上の爆発と比較してみましょう。


ヘル・ターゲット(OVA/1987):本谷作画
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なんとなくわかりますかね。爆発のフォルムが大小入り乱れており、メインは大きな楕円となっている。煙と煙の間の濃いカゲの入れ方や、タコ足煙や滞留の感じが似ている。

王立ビデオパート検証

水色の円はトゲトゲの炎のディテールで、赤色は濃いカゲの部分ですね。トゲトゲディテールは意外と見過ごしていました、もしかしたら、この時期の本谷爆発の特徴かもしれない。

それで、この爆発が本谷さんだと思ったのは、もう1点あって。成人漫画家の森野うさぎさんによる本谷利明インタビューのこの部分を読んでもらいたい。

★お手数ですがいままでやられた作品を教えて下さい。
(中略)
森「アニメのほうは?」
本「これは多いから、じゃ、映画だけね。
「オネアミスの翼」原画。ちょっとだけしかやってない。プロデューサーとけんかしてすぐに辞めた。
パイロットフィルムの時の方が、カット数が多いくらいだ。ガイナックスと相性が悪いな、俺。
Gが頭文字の会社とはけんかばっかりしてるな。ガイナックスとかゲームアーツとか。」
http://www4.plala.or.jp/croh/gvdb/morino99dec26.html から引用
こういうソースを信用しすぎるのもあれなんですが、「鋼の鬼」「AKIRA」であれだけクオリティの高い煙や爆発を書いている本谷さんを、当時のアニメ演出家が使おうとしないわけないんですよ。これは間違いない。例外なく、ガイナックスも参加を打診したけれど、まあ途中でトラブルった。

――ここからはかなりの推測になりますが、ガイナが本谷へ参加を打診した。んで、王立で原画を何カットか書いている途中で、プロデューサーと揉めて辞退。本当はもっとガッツリやってもらう予定だった。こういう流れだったと推測。だとすると、この本谷原画ってガイナックスにとっては、「扱いにくいモノ」ではないですかね。本人は辞めちゃった、けど、すげえ上手い爆発の原画が残っている。辞退したからといって、これを処分するのはあまりにもったいない。活かしたい。そういうわけで、あの劇中ビデオシーンに使われたのではないかと思うのです。


まあ、とにかもくにも、こういったわけで、その3については本谷作画だと思います。王立宇宙軍の本谷パートがずっと気になっていたので、今回少し記事にしました。