・「日常(TV/2011)」 12話

安中さんが楽しげに射的する回。この鉄砲の弾がキャラメルの箱に当たって跳ね返るシーンは、スローモーションの演出になっています。つまり、高速度撮影の描写です。
<1、高速度撮影とは>
高速度撮影とは、一言で言うならば、スローモーション映像のことです。高速度撮影の時に押さえておきたいポイントは、撮影と再生のフレーム数が異なるということです。どういうことかと言うと、普通の映像は、30F/秒(1秒間に30フレーム)とか同じフレーム数で撮影・再生を行います。これが、高速度撮影だとどうなるかというと、60F/秒で撮影したものを30F/秒で再生したりするんですよ。この時、1秒で撮影したものを再生するのに2秒かかります(60F÷30F/秒=2秒)。つまり、1秒分を2秒に膨らませて映像を作るわけです。この感覚分かりますかね。
基本的に、再生時のフレーム数は固定的なので、通常の映像よりも多くのフレーム数で撮影したシーンは、結果的に再生するために多くの時間が必要になります。同じように600F/秒(1秒間に600フレーム)で撮影した動画を30F/秒(1秒間に30フレーム)で再生するためには、20秒かかります(20秒×30F/秒=600F)。ちょっとここで、実際の例を少し見てもらいたい。
・参照1:「アヒルの水遊び」 撮影:600フレーム/秒

(引用元:http://www.youtube.com/watch?v=3ZM9d3q81dc)
ものすごく簡単にいえば、高速度撮影とは、瞬間の映像をびよーんと伸ばしている映像です。現実における一瞬の出来事、例えばバットにボールが当たる瞬間とか、拳銃が鉄板を撃ちぬく瞬間とか、風船が割れる瞬間とか、そういった刹那の間に何が起こっているかは通常の人間には分かりません。だから、そのような瞬間に何が起こっているか、どんな現象が発生しているのかを分析するために、こういった撮影方法が使われるわけです。
・参照2:「割れるコップ」 撮影:7000フレーム/秒

(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=vF1ucCKVsEo)
実写における高速度撮影では、撮影時に通常より多くのコマが使用されるのが基本と前述しました。これをアニメに置き換えるとなると、現在では3コマ作画(8F/秒)が主流ですので、原則的には1コマ作画(24F/秒)、ないしは3コマ中7など、中割り多めの作画が高速度撮影(スローモーションの表現)に向いていると言えます。
(※[訂正]「3コマ作画」とは、1秒間に使われる原動画(原画+動画)の枚数が8枚の作画のこと。「中割り」「中◯」とは、原画と原画の間の動画の枚数のこと。原画の後に描かれる追加の絵、という解釈でもいい。「3コマ中7」の時、原画1枚と動画7枚を足して、8枚が1秒間あたりに使用されます。)
そして、今回の本題である「バレットタイム」という技法は、この高速度撮影の表現を下地にしています。大分前に書いたバレットタイムの記事の中では、「高速度撮影」をさほど重視していなかったので、バレットタイムそのものについて理解が上手くいってなかっと思っていまして。もう一度、原点に帰ってみたいと思います。「バレットタイム」という技法を大いに広げたのは、やはり「マトリックス(2000)」です。この作品の映像をしっかり考えていく。
![19]](https://livedoor.blogimg.jp/ouritu_dora/imgs/4/2/421a2092-s.jpg)
![18]](https://livedoor.blogimg.jp/ouritu_dora/imgs/f/a/facd20cb-s.jpg)
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=bKEcElcTUMk)
300近い個数のスチルカメラを使って、スチル(静止画)を取り、それをコマ撮りで(1コマ2コマで)つなげていき、スローモーションの中を高速のカメラワークが突き抜けることにより、瞬間的なシーンに快感をもたらす。これが本来のバレットタイムのはずです。下地には、やはり高速度撮影があります。
<2、バレットタイムの概要・定義>
「バレットタイム」は、Wikipediaでは次のように定義されています。
「バレットタイム」の定義は、このようにさほどカッチリしていません。そのため、自分でも「これってバレットタイムっぽいけど、バレットタイムと呼んでいいのか微妙やな」というカットはとても多く、非常に困っていたので、簡易的ですが、シンプルな定義を作りました。これさえクリアしていれば、バレットタイムと呼んでもおk。
前回はスローモーションやカメラワークにこだわりすぎていましたが、シーンに現れるそれらはあくまでも現象であり、本質は「連続した大量のスチル」と「時間の膨らみ・伸びの感覚」です。以上のことを踏まえて、実際にアニメでの例を見ると理解しやすいと思う。
・「みなみけ(TV/2007)」 01話

ラブレターをもらったカナが家に帰ってくるシーン。細かい角度別に、順番に作画されていて、なおかつ時間が伸びていますよね。驚きを隠せないカナと、それとは対照的に冷ややかな視線を送る千秋と、少し怒ってるハルカの対比が上手い。仰角(水平から見上げるアングル)から俯角(水平から見下ろすアングル)へと変化していく、立体的なカメラワークがまた良い。
<3、2つのバレットタイムの概要>
そしてここからは、アニメにおけるバレットタイムをさらに2つに区分したいと思います。今回は少し、感覚的な部分も追求しました。以前は感覚的なものはあまり重視していなかったんですが、最後はこれだろうと。まあとにかく、バレットタイムは2つに分けるべきです。たぶん。
一つ目は、「連続型・バレットタイム」というもの。
「マトリックス」でネオが体を捻って弾丸を避けるこのシーンが、代表例です。

2つ目は、「同時型・バレットタイム」というものです。
この代表例は、モーフィアスが救出されるときに走るシーンです。

両者ともスローモーションであり、バレットタイムです。では何が違うのか。それは撮影方法の違いです。上記の「連続的」においては、スチルカメラを被写体の周りにたくさん並べ、角度別に連続して順番に撮影されています。しかし、「同時的」に関しては、スチルカメラが周囲に並べられるところまでは同じですが、撮影されるタイミングが「1、2、3」という風に連続ではなく、全く同じタイミングで撮影されます。ここが異なっている点です。連続してパシャパシャ静止画が撮られるか、一斉にパシャっと撮られるかが異なる点です。(参照:図1)

「連続型」も「同時型」も、被写体の周りをぐるっと撮影します。「連続型」が一連のアクションを角度別に連続して撮影するのに対し、「同時型」はどの角度においても同時に撮影します。こんな撮影方法だから、「同時型」は静止しているシーンが多くて、少し地味目になっちゃう。とにかく、この「同時型」の存在が、「これってバレットタイムなのか?分かんねえよ!間違ってたら許してヒヤシンス」となっている原因だと思います。百聞は一見に如かず、具体例を少し見て行きましょうかね。
<4、「同時型」の具体例>
・「ソードアート・オンライン(TV/2012)」 01話

キリトが最初に戦闘するシーン。正面から横顔に至る時、アクションはほとんど止まっている。これは、アングル変更のためと、ダブルアクション的(拳銃の引き金を弾く)な勢いを次カットにもたらすため。
・「咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A(TV/2012)」 16話

大将戦オーラス。チーした後に、横顔から正面へのアングル変更。そして、配牌の表示を見せることによって、竜華の深い洞察を示しているところがまた良い。
・「ご注文はうさぎですか?(TV/2014)」 08話

リゼちゃんの妄想シーン。アングルの90度変更と、シームレスにメイドを登場させるための「固定型」の使用。角度別の作画が、本当に細かくて丁寧なんですよ。カクカクしないように、角度別に枚数を多めに使っているし、BGが動くタイミングも同調させていてキレイ。
・「名探偵コナン」」(TV/2014) ED48「無敵なハート

横顔から正面へ。作画はとても丁寧でいいんだけど、BGの動かすタイミングとちょっと噛み合わない感じがあって惜しい。でも、髪のなびきは見事ですよね。アングルが変わっても、風の流れは変わらず、しっかりとなびきで表現されている。
・「未確認で進行形(TV/2014)」 ぜんたい的にセンセーション(MV)

紅緒様の回転作画シーン。いきなり回転するので、コメディ的なショック感がありとても良い。こう何というか、びくっとする感じですね。画面前方を大きく横切る手の作画もまた丁寧でカワイイ。このMVは、「カワイイ女の子を詰めました」的な感じなので、それがこういうよく分からないシーンでも表現されているのは見事。
アニメにおいての「同時型」は、横顔から正面へ、もしくはその逆のシーンが多いです。これはまあ、カワイイ女の子の正面絵を見せようという考えと、アングル変更するためにオーバラップ等でカットをつなぐ演出よりも、もっとシームレス(カットとカットの間に、継ぎ目がない滑らかな感じ)を求めているためかもしれない。横顔から正面へのアングル変更なので、90度以内でカメラワークの角度別に作画されています。
これらのカットでは、カメラはギュイッという感じで急速的に動くことが多いですね。「マトリックス」のネオみたいに高速移動ではなく、短い時間に急速移動する感じ。スライダーというよりも、手元で曲がるカットボールみたいな。カットだけに。次からは、「連続型」のバレットタイムを見ていきます。
<5、「連続型」の具体例と、その定義>
・「フリクリ(OVA/2000)」 01話

ハルコがナオタにチューするところ。BGとの同調具合、仰角(水平から見上げるアングル)から俯角(水平から見下ろすアングル)へと移り変わるカメラワークが見事。最後のクロスフィルターもいい味出してる。「キス」という一瞬のシーンを、誇張して大げさに表現している。
・「黒塚 KUROZUKA(TV/2008)」 01話

首切りアクションシーン。カメラが回ってから一周した後ぐらい(背景の家が再度現れる辺り)に、少しアングルが仰角になることで刃物が突きつけられる首元に視線が誘導される。
・「Fate/zero」(TV/2011) 24話

サーヴァントなにそれおいしいの状態のラストバトル。カメラアングルは、切嗣に寄る際に仰角から入り、切嗣の後ろを抜けて、言峰へと寄っていく際に俯角へと移行していく。これはお互いの心情を通過している描写。そしてラストは両者の力が拮抗していることを示すために、真上からのアングルになっていく。
・「ソードアート・オンライン(TV/2012)」 01話

剣で一撃するシーン。これは被写体であるキリトくんではなく、フィールド上を細かく角度別に映すことによって、結果的にキリトくんの圧倒的な強さを示している。これからの戦いでも強いんだろうな、といった感じの示唆もされている。
・「黒執事 Book of Circus(TV/2014)」 01話

シャンパングラスタワーが崩れてしまう一瞬のシーン。背景の3DCGと作画のタイミングがズレてなくていいですね。これすごく丁寧で細かいです。ラスト俯角になってから、キャラの顔に寄っていくんですが、そこの作画もツメが効いてていいです。口の動きも細かく描いている。
・「アイドルマスター シンデレラガールズ(TV2015)」 04話

あめ玉で杏を釣るところ。あめ玉がキラキラと画面内に散らばっていて、綺麗なシーン。ただ贅沢をいうと、カット尻はもう少しフェアリング(慣性的なタメツメの表現)、スローモーションさせて欲しかった。あめ玉がちょっと空中でゆっくりと落ちていくみたいな。
上記のgif群では、これらが基本的には守られています。 1は、前述した通り。高速度撮影表現が下地にあるため。2も同じく、一瞬のアクション、状況を事細かに描くことで魅力を発現させるバレットタイムには必須。3は、アクションはゆっくりなのに、カメラワークは速いという爽快感あるギャップを生み出すために必要です。 俯角、仰角などのアングルを使う、立体的なカメラワークについてですが、これは微妙です。一瞬の出来事を描写するためには、立体的なカメラワークが必要な感じもしますが、「黒塚」等で無くても成立しているので何とも微妙。あれば、よりシーンが良くなるという感じですかね。
技術的な要件も当然あるんですが、これらに終始してしまうと、前回のようにワケワカメになってしまうので、感覚的に図っていくのも大事です。感覚的には、「映像が引き伸ばされている感覚を抱く動画・シーン」という感じです。最初の簡易的な定義を見たした上で、「あっ何かマトリックスっぽいな」とかかっこ良く感じられれば、それはバレットタイムと呼んでいいと思う。ここは微妙なとこですが、やっぱダサい映像って技法そのものが成功していないと思うんですよ。成功しているからこそ、マトリックスのあのシーンは魅力的なわけで。見たらみんながマトリックスごっこするわけで。
バレットタイムの魅力や意義は、その根本である高速度撮影の技術的な利用と似ているところが多くあります。一瞬の現象を引き伸ばすことによって、何が起こっているのかを分析する高速度撮影(ハイスピード撮影)と同じように、アニメのバレットタイムでも一瞬に含まれるカッコ良さ、緊張感、そして感情を表現することが目的です。普通のスピードでは、目前に広がる光景で何が起こっているかわからないけど、それがゆっくりと映されることによって、視聴者にスゴさが伝わる。2009年WBC決勝でのイチローの勝ち越しタイムリーも一瞬なんですけど、すごく長い時間のように感じるじゃないですか。現実でも時間って膨らみますよね。ああいう感じとは言いませんけど、似た感じのインパクトあるシーンを作るために、(手間もかかるのに)バレットタイムを使用すると思います。たぶん。
<参考文献>

安中さんが楽しげに射的する回。この鉄砲の弾がキャラメルの箱に当たって跳ね返るシーンは、スローモーションの演出になっています。つまり、高速度撮影の描写です。
<1、高速度撮影とは>
高速度撮影とは、一言で言うならば、スローモーション映像のことです。高速度撮影の時に押さえておきたいポイントは、撮影と再生のフレーム数が異なるということです。どういうことかと言うと、普通の映像は、30F/秒(1秒間に30フレーム)とか同じフレーム数で撮影・再生を行います。これが、高速度撮影だとどうなるかというと、60F/秒で撮影したものを30F/秒で再生したりするんですよ。この時、1秒で撮影したものを再生するのに2秒かかります(60F÷30F/秒=2秒)。つまり、1秒分を2秒に膨らませて映像を作るわけです。この感覚分かりますかね。
基本的に、再生時のフレーム数は固定的なので、通常の映像よりも多くのフレーム数で撮影したシーンは、結果的に再生するために多くの時間が必要になります。同じように600F/秒(1秒間に600フレーム)で撮影した動画を30F/秒(1秒間に30フレーム)で再生するためには、20秒かかります(20秒×30F/秒=600F)。ちょっとここで、実際の例を少し見てもらいたい。
・参照1:「アヒルの水遊び」 撮影:600フレーム/秒

(引用元:http://www.youtube.com/watch?v=3ZM9d3q81dc)
ものすごく簡単にいえば、高速度撮影とは、瞬間の映像をびよーんと伸ばしている映像です。現実における一瞬の出来事、例えばバットにボールが当たる瞬間とか、拳銃が鉄板を撃ちぬく瞬間とか、風船が割れる瞬間とか、そういった刹那の間に何が起こっているかは通常の人間には分かりません。だから、そのような瞬間に何が起こっているか、どんな現象が発生しているのかを分析するために、こういった撮影方法が使われるわけです。
・参照2:「割れるコップ」 撮影:7000フレーム/秒

(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=vF1ucCKVsEo)
実写における高速度撮影では、撮影時に通常より多くのコマが使用されるのが基本と前述しました。これをアニメに置き換えるとなると、現在では3コマ作画(8F/秒)が主流ですので、原則的には1コマ作画(24F/秒)、ないしは3コマ中7など、中割り多めの作画が高速度撮影(スローモーションの表現)に向いていると言えます。
(※[訂正]「3コマ作画」とは、1秒間に使われる原動画(原画+動画)の枚数が8枚の作画のこと。「中割り」「中◯」とは、原画と原画の間の動画の枚数のこと。原画の後に描かれる追加の絵、という解釈でもいい。「3コマ中7」の時、原画1枚と動画7枚を足して、8枚が1秒間あたりに使用されます。)
そして、今回の本題である「バレットタイム」という技法は、この高速度撮影の表現を下地にしています。大分前に書いたバレットタイムの記事の中では、「高速度撮影」をさほど重視していなかったので、バレットタイムそのものについて理解が上手くいってなかっと思っていまして。もう一度、原点に帰ってみたいと思います。「バレットタイム」という技法を大いに広げたのは、やはり「マトリックス(2000)」です。この作品の映像をしっかり考えていく。
![19]](https://livedoor.blogimg.jp/ouritu_dora/imgs/4/2/421a2092-s.jpg)
![18]](https://livedoor.blogimg.jp/ouritu_dora/imgs/f/a/facd20cb-s.jpg)
(引用元:https://www.youtube.com/watch?v=bKEcElcTUMk)
300近い個数のスチルカメラを使って、スチル(静止画)を取り、それをコマ撮りで(1コマ2コマで)つなげていき、スローモーションの中を高速のカメラワークが突き抜けることにより、瞬間的なシーンに快感をもたらす。これが本来のバレットタイムのはずです。下地には、やはり高速度撮影があります。
<2、バレットタイムの概要・定義>
「バレットタイム」は、Wikipediaでは次のように定義されています。
被写体の周囲にカメラをたくさん並べて、アングルを動かしたい方向にそれぞれのカメラを順番に連続撮影していき、被写体の動きはスローモーションで見えるが、カメラワークは高速で移動する映像を撮影する技術、またはその効果を指す。引用元:バレットタイム-Wikipedia
「バレットタイム」の定義は、このようにさほどカッチリしていません。そのため、自分でも「これってバレットタイムっぽいけど、バレットタイムと呼んでいいのか微妙やな」というカットはとても多く、非常に困っていたので、簡易的ですが、シンプルな定義を作りました。これさえクリアしていれば、バレットタイムと呼んでもおk。
バレットタイム [簡易的な定義]1、細かい角度別の絵(スチル)がたくさんある2、時間の膨らみ・伸びを感じられる
前回はスローモーションやカメラワークにこだわりすぎていましたが、シーンに現れるそれらはあくまでも現象であり、本質は「連続した大量のスチル」と「時間の膨らみ・伸びの感覚」です。以上のことを踏まえて、実際にアニメでの例を見ると理解しやすいと思う。
・「みなみけ(TV/2007)」 01話

ラブレターをもらったカナが家に帰ってくるシーン。細かい角度別に、順番に作画されていて、なおかつ時間が伸びていますよね。驚きを隠せないカナと、それとは対照的に冷ややかな視線を送る千秋と、少し怒ってるハルカの対比が上手い。仰角(水平から見上げるアングル)から俯角(水平から見下ろすアングル)へと変化していく、立体的なカメラワークがまた良い。
<3、2つのバレットタイムの概要>
そしてここからは、アニメにおけるバレットタイムをさらに2つに区分したいと思います。今回は少し、感覚的な部分も追求しました。以前は感覚的なものはあまり重視していなかったんですが、最後はこれだろうと。まあとにかく、バレットタイムは2つに分けるべきです。たぶん。
一つ目は、「連続型・バレットタイム」というもの。
「マトリックス」でネオが体を捻って弾丸を避けるこのシーンが、代表例です。

2つ目は、「同時型・バレットタイム」というものです。
この代表例は、モーフィアスが救出されるときに走るシーンです。

両者ともスローモーションであり、バレットタイムです。では何が違うのか。それは撮影方法の違いです。上記の「連続的」においては、スチルカメラを被写体の周りにたくさん並べ、角度別に連続して順番に撮影されています。しかし、「同時的」に関しては、スチルカメラが周囲に並べられるところまでは同じですが、撮影されるタイミングが「1、2、3」という風に連続ではなく、全く同じタイミングで撮影されます。ここが異なっている点です。連続してパシャパシャ静止画が撮られるか、一斉にパシャっと撮られるかが異なる点です。(参照:図1)

「連続型」も「同時型」も、被写体の周りをぐるっと撮影します。「連続型」が一連のアクションを角度別に連続して撮影するのに対し、「同時型」はどの角度においても同時に撮影します。こんな撮影方法だから、「同時型」は静止しているシーンが多くて、少し地味目になっちゃう。とにかく、この「同時型」の存在が、「これってバレットタイムなのか?分かんねえよ!間違ってたら許してヒヤシンス」となっている原因だと思います。百聞は一見に如かず、具体例を少し見て行きましょうかね。
<4、「同時型」の具体例>
・「ソードアート・オンライン(TV/2012)」 01話

キリトが最初に戦闘するシーン。正面から横顔に至る時、アクションはほとんど止まっている。これは、アングル変更のためと、ダブルアクション的(拳銃の引き金を弾く)な勢いを次カットにもたらすため。
・「咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A(TV/2012)」 16話

大将戦オーラス。チーした後に、横顔から正面へのアングル変更。そして、配牌の表示を見せることによって、竜華の深い洞察を示しているところがまた良い。
・「ご注文はうさぎですか?(TV/2014)」 08話

リゼちゃんの妄想シーン。アングルの90度変更と、シームレスにメイドを登場させるための「固定型」の使用。角度別の作画が、本当に細かくて丁寧なんですよ。カクカクしないように、角度別に枚数を多めに使っているし、BGが動くタイミングも同調させていてキレイ。
・「名探偵コナン」」(TV/2014) ED48「無敵なハート

横顔から正面へ。作画はとても丁寧でいいんだけど、BGの動かすタイミングとちょっと噛み合わない感じがあって惜しい。でも、髪のなびきは見事ですよね。アングルが変わっても、風の流れは変わらず、しっかりとなびきで表現されている。
・「未確認で進行形(TV/2014)」 ぜんたい的にセンセーション(MV)

紅緒様の回転作画シーン。いきなり回転するので、コメディ的なショック感がありとても良い。こう何というか、びくっとする感じですね。画面前方を大きく横切る手の作画もまた丁寧でカワイイ。このMVは、「カワイイ女の子を詰めました」的な感じなので、それがこういうよく分からないシーンでも表現されているのは見事。
アニメにおいての「同時型」は、横顔から正面へ、もしくはその逆のシーンが多いです。これはまあ、カワイイ女の子の正面絵を見せようという考えと、アングル変更するためにオーバラップ等でカットをつなぐ演出よりも、もっとシームレス(カットとカットの間に、継ぎ目がない滑らかな感じ)を求めているためかもしれない。横顔から正面へのアングル変更なので、90度以内でカメラワークの角度別に作画されています。
これらのカットでは、カメラはギュイッという感じで急速的に動くことが多いですね。「マトリックス」のネオみたいに高速移動ではなく、短い時間に急速移動する感じ。スライダーというよりも、手元で曲がるカットボールみたいな。
<5、「連続型」の具体例と、その定義>
・「フリクリ(OVA/2000)」 01話

ハルコがナオタにチューするところ。BGとの同調具合、仰角(水平から見上げるアングル)から俯角(水平から見下ろすアングル)へと移り変わるカメラワークが見事。最後のクロスフィルターもいい味出してる。「キス」という一瞬のシーンを、誇張して大げさに表現している。
・「黒塚 KUROZUKA(TV/2008)」 01話

首切りアクションシーン。カメラが回ってから一周した後ぐらい(背景の家が再度現れる辺り)に、少しアングルが仰角になることで刃物が突きつけられる首元に視線が誘導される。
・「Fate/zero」(TV/2011) 24話

サーヴァントなにそれおいしいの状態のラストバトル。カメラアングルは、切嗣に寄る際に仰角から入り、切嗣の後ろを抜けて、言峰へと寄っていく際に俯角へと移行していく。これはお互いの心情を通過している描写。そしてラストは両者の力が拮抗していることを示すために、真上からのアングルになっていく。
・「ソードアート・オンライン(TV/2012)」 01話

剣で一撃するシーン。これは被写体であるキリトくんではなく、フィールド上を細かく角度別に映すことによって、結果的にキリトくんの圧倒的な強さを示している。これからの戦いでも強いんだろうな、といった感じの示唆もされている。
・「黒執事 Book of Circus(TV/2014)」 01話

シャンパングラスタワーが崩れてしまう一瞬のシーン。背景の3DCGと作画のタイミングがズレてなくていいですね。これすごく丁寧で細かいです。ラスト俯角になってから、キャラの顔に寄っていくんですが、そこの作画もツメが効いてていいです。口の動きも細かく描いている。
・「アイドルマスター シンデレラガールズ(TV2015)」 04話

あめ玉で杏を釣るところ。あめ玉がキラキラと画面内に散らばっていて、綺麗なシーン。ただ贅沢をいうと、カット尻はもう少しフェアリング(慣性的なタメツメの表現)、スローモーションさせて欲しかった。あめ玉がちょっと空中でゆっくりと落ちていくみたいな。
まあ、ぶっちゃますと「連続型」の方が本来のバレットタイムだと僕は思うんですよ。立体的なカメラワークから、角度別のスチル、膨らんだ時間を含めて「マトリックス」のあのシーンに極めて近いと感じています。そのため、「連続型」の定義というのは、バレットタイムの定義とほぼ同じでいいんじゃないのかと。
連続型バレットタイム [定義]1:理想は原則として1コマ作画。3コマ作画でも可能2:画面内の物体のアクションは、静止もしくはスローモーションに近い状態3:高速カメラワーク
上記のgif群では、これらが基本的には守られています。 1は、前述した通り。高速度撮影表現が下地にあるため。2も同じく、一瞬のアクション、状況を事細かに描くことで魅力を発現させるバレットタイムには必須。3は、アクションはゆっくりなのに、カメラワークは速いという爽快感あるギャップを生み出すために必要です。 俯角、仰角などのアングルを使う、立体的なカメラワークについてですが、これは微妙です。一瞬の出来事を描写するためには、立体的なカメラワークが必要な感じもしますが、「黒塚」等で無くても成立しているので何とも微妙。あれば、よりシーンが良くなるという感じですかね。
技術的な要件も当然あるんですが、これらに終始してしまうと、前回のようにワケワカメになってしまうので、感覚的に図っていくのも大事です。感覚的には、「映像が引き伸ばされている感覚を抱く動画・シーン」という感じです。最初の簡易的な定義を見たした上で、「あっ何かマトリックスっぽいな」とかかっこ良く感じられれば、それはバレットタイムと呼んでいいと思う。ここは微妙なとこですが、やっぱダサい映像って技法そのものが成功していないと思うんですよ。成功しているからこそ、マトリックスのあのシーンは魅力的なわけで。見たらみんながマトリックスごっこするわけで。
バレットタイムの魅力や意義は、その根本である高速度撮影の技術的な利用と似ているところが多くあります。一瞬の現象を引き伸ばすことによって、何が起こっているのかを分析する高速度撮影(ハイスピード撮影)と同じように、アニメのバレットタイムでも一瞬に含まれるカッコ良さ、緊張感、そして感情を表現することが目的です。普通のスピードでは、目前に広がる光景で何が起こっているかわからないけど、それがゆっくりと映されることによって、視聴者にスゴさが伝わる。2009年WBC決勝でのイチローの勝ち越しタイムリーも一瞬なんですけど、すごく長い時間のように感じるじゃないですか。現実でも時間って膨らみますよね。ああいう感じとは言いませんけど、似た感じのインパクトあるシーンを作るために、(手間もかかるのに)バレットタイムを使用すると思います。たぶん。
<参考文献>