■「告白(2010)」  監督:中島哲也 原作:湊かなえ

当時(2011)ぐらいに見た記憶を頼りに書く。主人公は娘を殺された女教師(松たか子)であり、その他の主な登場人物は少年A(頭いいヤツ)とB(自尊心が大きすぎるガキ)、そして少年Aと多くの描写がある少女(橋本愛)である。各家庭の状況をそれぞれに描いていて、特に母親に対しての焦点が鋭かった。少年Aの母親は大学教授であり、少年Aはマザーコンプレックスであった。また「家庭」においては断絶の状態であり、少年Aの聡明さが災いし、結果あの結末となる。一方少年Bの母親は、過保護・過干渉の存在として描かれ、最後には、自分の息子を殺そうとするという結末に至る。両者はどちらも悲劇的な最後であるし、どちらにも救いはない。このどちらにも救いがない悲劇的なラストに爆発を持ってくるのが、まさしくカタルシスといったところだろうか。女教師にとっては、完全なる復讐の完遂である。

少女を少年Aが殺害した理由、というのをはっきりと覚えていないからまた見直そうと思う。橋本愛は凄くかわいい。多分この時に初めて知ったと思う。しかし、このそれぞれの「告白」によって、段々と状況が把握できてくる感じ、霧が晴れていくような感覚は素晴らしい構成。後は、監督について。

監督は中島哲也。「嫌われ松子の一生(2006)」 がそれまでは有名だったと思うけど、あれは見てないから何とも言えない。タイポグラフィは確か、「下妻物語(2004)」では、ゴシック系(「木更津キャッツアイ」みたいな、シュビーン系)で、「松子」では金文体な感じだったんですけど、「告白」から急に明朝に変わった気がする。そんで、「渇き。(2014)」でも、明朝押しは激しく、市川崑のタイポグラフィを凄く真似ている。推測すると、エヴァ新劇序は2007であり、日本映画界においても耳に届いてないはずもなく。まあ簡単にいえば、インパクトが強いということで採用したんではないかと。



■「容疑者Xの献身」 監督:西谷弘 原作:東野圭吾

天才数学者である石神は、隣の家で起こった殺人を全て自分にふっかけ、犯人の親子2人を匿う。この献身さの描写が素晴らしい。一点の曇りもないその純粋で緻密な献身は、愛情・恋愛という方程式を解くという行為である。石神にとっては解答が完成していたが、最後に女がやってくることで、破綻を迎える。

湯川と刑事のアバンでの会話をメインテーマに据え、「愛は解けるか」ということを描く。湯川が石神の家を訪れ、リーマン予想に関する反論の精査を依頼するのだけれど、解き終わった後のシーンの石神のセリフがいい。「素数の分布に対する考えが根本から間違っている」というセリフで、実はこれが最後のシーンに対する伏線になっている。恋愛に関して「こうすれば、こうなる」と石神が前提を立てていた故に、あの献身さがあったのだが、一番最後に重要な可能性を見落としていたのだということが分かる。それは人の思いもよらない想定外・非合理な行動であり、この部分を石神は勘違いしていた。最後の絶叫はその気付きである。

それにしても細かい絵作りが良かったと思う。ラストの壊れたスノーボールとか、ホームレスの描写とか、良かった。終盤における留置所の四色問題のシークエンスとか、良かったなあ。