フリッカーというのは、笑ったり力を入れたりするときの小刻みなブレを作画する手法です。この1カットを鈴木俊二さんがツイートされてから、各方面で話題に(リンク)。

■「アラタなるセカイ(2012/OVA)」
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同スロー
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高笑いをしながら、少し後ろに後ずさりするカット。このように小刻みなブレを入れることで、「ハッハッハ」という感じを画で示している。時々目にするこの小刻みなブレ、「フリッカー作画」はどのような手法により映像となっているのか。


<1、フリッカー作画の実例いろいろ>

まずは、色々とフリッカー作画の実例を見て行きましょう。

■「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊(1995/劇場)」 原画:濱州英喜
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濱州作画。少佐が力をめいいっぱい入れて、ハッチをこじ開けようとしているシーン。カゲとハイライトを動きに合わせて入れることにより、義体の限界を超えた力が入っていることや、ピンと伸長した筋肉がブルブルと震える様子を表現している。


そんで、これに影響を受け、橋本敬史さんがエヴァ破において落下使徒を受け止めるシーンをフリッカー作画で描いています。これがまたすごい。

・「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(2009/劇場)」 原画:橋本敬史
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使徒の重圧によって、エヴァの上腕は膨らみ、前腕はガクガクと震えている様子が存分に伝わってきますよね。これをフリッカーで描写しています。濱州作画との相似点は、カゲの入れ方ですね。筋肉がひしめく感じを表現するために入れている、カゲの移動が上手い。


ちなみに、エヴァ破ではこの他にもフリッカーの作画が見られたりもしています。

ダミーシステム拒絶カット
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ダミーシステムによる起動を、初号機が拒絶しているシーン。ぐぐぐっと頭部が動くところが、フリッカー作画されている。目の点滅とともにブレを起こすことで嫌がっている様子を表現している。



ちょっと、攻殻機動隊に戻ります。
この黄瀬和哉(※推測)パートがとんでもなくスゴイ。

■「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊(1995/劇場)」 原画:黄瀬和哉(※推測)
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人形使いを無理やり起動させているシーン。難しいアングルから、人形使いが非正常な状態で起き上がる様子を作画しています。圧巻のアニメート。尋常じゃないですね、この作画は。フリッカーによってラグやバグが生じているような正常ではない状態を表しており、不安を煽る動きを演出しています。音もついてないのに、普通にこわい。こういう不安を煽るシーンに、フリッカーはとても有効です。

何度も見てると感じたのが、この作画エンジンの駆動っぽいですね。ドルルンって感じが。だから、バイク作画とかにはフリッカーは使われてるかもなあと思っていたり。

目玉ぐるーん
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52]

攻殻もう一つ。3方向(右、左、上下)のブレをフリッカーで作画。目の焦点が合ってない感じが伝わってきますよね、壊れている機械を無理やり動かしている感じ。カット終盤、目玉がギョロッと下に移行するのがまた上手い。こわいです、めっちゃこわい。


■「サンダーキャッツ(1985)」 OP 原画:摩砂雪
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エフェクトを剣で抑えるシーン。剣で受け止める部分に、フリッカーが使われています。グッグッという感じがして良いですよね。エヴァの監督・コンテ等で有名な摩砂雪さんですが、この人は元々めっちゃ上手いアニメーターです。金田系アニメーターであり、特にジャンプの作画が上手い印象(個人観)。この剣のカット以外もキレッキレな動きが堪能できるので、暇な人はOP見たら楽しめます。


・「問題児たちが異世界から来るそうですよ?(2013/TV)」 01話
・「勇しぶ-勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。-(2013/TV)」01話
(※アニメタイトル間違えていました 2016/08/09修正)
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音声なしでも、「ガッハハハ」と笑う感じが伝わってくるシーン。顔だけ揺らすんじゃなくて、肩も連動させて上下していて上手いですよね。多分こういうのが絵の魅力というのかもしれんです。



<2、フリッカーの表現手法>

そんで、ここからは技術の紹介。

このフリッカーは、タイムシートによって調整されることが多いようで、少しだけ紹介します。

タイムシートとは、カットの設計書のようなものです。このセルは何コマ映すのかとか、中割りは何枚入れるのか、どんな特殊効果を入れるのかということを原画マンが書き込んでいきます。これが動画マンに渡り、指示どおり中割りされ、それが演出でチェックされ、最終的には撮影へと回っていきます。

CBZTGFFVIAA-Guu (1)
(引用:https://twitter.com/sato_masafumi/status/582744570821103617

フリッカー作画の方法には、基本形の絵とブレた絵の2つを予め原画として用意し、その中割りを交互に繋いでいくことによってフリッカーさせる方法があります。これは、佐藤まさふみさんが言及されていた方法(リンク)で、直感的で分かりやすいと個人的には思ったり。言及されている通り、使いどころを選びそうではあります。


もう一つは、本来原画を滑らかにつなぐための中割り(動画)を、わざとずらしてブレさせる方法。こちらがおそらく、主流だと思われます。滑らかに並んでいる動画をわざとずらすことによって、ガタツキが起き、結果フリッカー作画となります。[訂正]上記の図で言えば、①→②→ア→カ→イ→キ→ウ→ク→エ→ケ→オ→コ→③という風に繋いででフリッカー作画をします。

その実例を一つ見てみましょう。

■「未来少年コナン(1978/TV)」 03話 原画:近藤喜文
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コナンとジムシーが取っ組み合いのケンカをしているシーン。「お前の足なんかポッキンだ」のシーンです。『耳をすませば』の監督で知られる、故・近藤喜文さんの作画。両者の力の拮抗具合、力のぶつかり具合がフリッカーによって上手く描写されていますね。


同カット-原画
CF777CXUMAAptdk
(引用:https://twitter.com/ESAKUGA/status/605704205353885698

右上が中割り指示です。②と③の間をイロハで繋いでいますよね。中割り指示というのは、通常一直線になるんですが、この場合だと時々上に戻ってジグザグ線になっているのが分かると思います。滑らかに繋ぐ動画を、あえてズラすことによりブレさせているんですね。(※以下この記事では、そういった中割りの仕方を「ジグザグ中割り」と呼びます。)



<3、演出としてのフリッカー表現の整理>

[不安・恐怖の表現]
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「攻殻機動隊」等。フリッカーの不安定な動きによって、不気味の谷みたいな言いようのない怖さを出す。奇妙でオカシイと感じる動きを演出する。


[拮抗・匹敵の表現]
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「未来少年コナン」や「サンダーキャッツ」での表現。
鍔迫り合いのようなもので、両者の力が拮抗しているからこそブレが生じる。
そのブレをフリッカーで表現している。


[メカ物の表現]

・「ガンダムビルドファイターズ(2013/TV)」 16話
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メカ・ロボのギミック的な演出。
これはガシーンと左腕が出た後、その反動によって小刻みに動いているのをフリッカーで表現している。これは探せばたくさんありそうで。メカ物における細かなグググッとした握りこぶしだとか、そういうのがあります。
予兆的な演出ですね、その後に控えている決めポーズや必殺技の前座・予兆としての表現。



フリッカー、面白いです。




<参考文献>
M.S.Cアニメーション用語集-フリッカー